Part1 Pantom Blood

□切り裂きジャックと奇人ツェペリ その3
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 ーー修行がはじまってから1週間が経った。私、そしてあの後に男爵が見出したもう一人の戦士であるジョナサンとともに、波紋法を身につけるべく、日々精進している。
 余談だけど、この修行が始まる前、ロバートの舎弟たちである刺青と東洋人が、修行着を贈ってくれた。

『姐御! これ使ってくれ!』
『祖国のものネ!軽くて動きやすヨー!!』

 それは、いわゆる中華服といやつだった。東洋人の言うとおり、軽くて動きやすく、あの2人にしては意外なほどデザインもよかった。スリットが深くてそのままだと流石に着れない。だから、乗馬用のズボンを履くことで補った。2人が妙に残念そうな顔をしていたけど、私、何かしたかしら?
 いけないいけない。集中しないと。
 私が見つめる先には、ジョナサンと男爵がいる。向かい合わせに立ち、互いに、相手に拳を突き合わせている。
 一方の私は、少し離れた位置で2人を見ていた。ただ見ているだけではない。水面に立って見ている。男爵曰く、水面の波紋エネルギーと体内の波紋エネルギーを反発させ合うことで、水面に乗ることが出来るのだという。彼は簡単にやってのけるけれど、これが意外と難しい。ちょっとでも気を抜けばすぐに沈んでしまいそうだ。最近、何とか足首を濡らせば歩けるようにはなったけれど、それもたった数歩のこと。足の裏と水面となると、立っているだけでも汗が吹き出した。
 男爵がジョナサンを挑発するように指を曲げる。打ってこいということだ。タイミングは同時だから、普通に考えてリーチの長いジョナサンの方が有利。
 そう、普通に考えれば。

「!」

 まただ。男爵の腕がもうこれ以上伸びないと確認した時、毎回手元でグーンと伸びる。スピードもほぼ一緒なのに。それもまた、波紋法の利用によるものなのだろう。

「石仮面の力によるスピードとパワーには、人間がどんなに努力しても太刀打ちできん! だったら、それに変わるものを身につけなければ、奴らには勝てないのだ」

 教えた呼吸のリズムを狂わすな。波紋エネルギーは、精神の乱れにとても敏感だと。
 傘でジョナサンの頭をはたきながら男爵は言う。
 ようはリズムを保てばいい事。けれど聞くところには、これは才能があるかないからしい。
 母がこんな厳しい修行を乗り越え、あそこまでに至ったのか。今まで母を、心の何処かで避けていたことに気づき少し後悔した。

「ミツネ!リズムを乱すなと言っているだろう!また足が浸かっているぞ!」
「え、あ、キャッ!!」

 ハッと下を見ると、いつの間にか足首まで浸かってしまっていた。それだけではない。それに動揺して、私はリズムを乱してしまい、焦って後ろに尻餅をついてしまった。
 すっかり全身ずぶ濡れになった。

「やれやれ……」
「ミツネ!大丈夫かい?」

 男爵が苦笑する声が聞こえ、ジョナサンがこちらに走り寄って来た。彼の手を取り、何とか立ち上がる。

「えぇ。私としたことが情けないわ」
「それは僕も同じさ。お互いまだまだ頑張らないと」
「その通り!さぁ休んでいる暇はないぞ。ジョジョには今日中に、このズームパンチをマスターしてもらわねば!」
「はいっ!」

 何処か嬉々とした表情で彼は再び男爵と向き合う。
 そんな彼の様子を見ながら、私は少しだけ安堵した。そしてまた、呼吸を整え水面に立つのだった。
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