Part1 Pantom Blood

□切り裂きジャックと奇人ツェペリ そのA
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腕はまるで、そこだけが脈動を始めたかの如く治ってしまった。

「し……信じられねぇッ!完治するのにあとひと月かふた月はかかる傷のはず!!」
「けれどもうほとんど……痛みはないわッ!」

試しに肩をグルグル回してみた。何をやっても動かず、また無理に動かそうとすれば強烈な痛みを感じたそこは、なんとも無くなっている。

「前と変わらない……まるで、怪我したことさえなかったかのようだわ!」

私とロバートは、恐々帽子の男ーーツェペリ男爵を見つめる。

「い……いったい何をしたの? あ、あなたは何者?!どうして母さんを知っているのッ!?」

母のこともあり、焦る私は半ば噛み付くようにツェペリ男爵に問いかける。

「質問は一つずつにしてくれないかねミツネ。まぁそういうところも、ますますフヨウに似ているといえば似ているがね…………で」

男爵は口の端を上げ、こちらとは対照的にかなり悠長な口調で話す。

「だから言ったろう……。わたしが、したのではない。君の『呼吸』が痛みを消したのだとね。フヨウは話さなかったのかな?」

その時、男爵の持っていたサンドウィッチに大量の胡椒がかかってしまった。舞い上がったそれは男爵の鼻を刺激して……。

「ハブショッ」

くしゃみをした反動で石垣の後ろに落ちた。

「どうしてわたしにこんなことを!?あなたと母にはどういう繋がりがあるというの!?」

慌てて駆け寄るもなぜか、石垣の向こうにその姿はない。

「いねぇ!なんだってんだぁ?」
「質問は一つずつだってばさあミツネ……。わたしとフヨウは兄弟子と妹弟子の関係さ。答えを見せてやるよ、ついておいで。
そして、それを見てわたしを知ったら……君の運命はまた変わる。いや……これはある意味、フヨウからの宿命なのかもしれないがね……」
「?!」

男は再びサンドウィッチに胡椒をかけようとして盛大なくしゃみをした。

「何なんだあのおっさんは……?」
「得体がしれないわ。けれど……たぶん悪人じゃあないとは思う。腕が治ったのは事実だし……」
「ついてってみねえ事にはわからねえってことか。俺も行くぜ」

私とロバートは、男爵の後に続いた。
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