Long(JOGIO-Assassino)
□"まもる"ということ
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「ハヒィー……ヒィ……」
「…………」
リーダー格の男に馬乗りになり、その首にナイフを当てるフィオーレ。
辺りはすっかり血まみれで、とても静かだった。
座り込むトリッシュは、驚きで声が出ず、ただただフィオーレを見つめていた。
「……思い、だしたぜぇ……お前、組織の暗殺チームのフィオーレ、だろ……」
「…………」
「ガキだって聞いたから気にも止めなかったが……なるほど、その歳で暗殺チームに入ることはある……」
「…………」
「……なぁ、お前、俺たちと来ないか? 組織の暗殺チームは、組織内じゃ待遇良くないって聞くじゃねぇか……お前だけが嫌なら他のヤツつれてきたって構わねぇ。俺からウチのボスに言っといてやるから、待遇は保証するぜ……なぁ……?」
「…………」
フィオーレは男に冷たい視線を投げかけたかと思うと、ナイフの切っ先を真一文字に流した。
短い声を出して、男は血を噴き出して絶命した。
「……じぶん、の、こと……知られ、てる、だめ……知ってる、こうする……」
男から体を退く。
血と脂を落とすためナイフを降り、仕舞う。服の埃を軽くはたいて、フィオーレは振り返った。
腰が抜けたように座り込み、驚愕の表情で、こちらを見つめるトリッシュの姿があった。
「な……なんなのあなた……組織? 暗殺チーム? どういうことなの……? それに、さっきの……ウェディングドレスみたいなの着てた人は、どこに……?」
「……じぶん、目、しんじる……」
「え……」
「じぶん、で、見た、しんじつ、は……しんじ、られる……これが、しんじつ」
フィオーレは、ほんの小さな微笑みをトリッシュに向けて、その場を去ろうとした。
「……!待って!」
トリッシュに呼び止められ、フィオーレはその足を止める。
「…………あなたの、名前は? さっきのヤツが言ってたけど、あなた自身の口から聞きたい。私はトリッシュ・ウナよ」
「……フィオーレ」
名乗り、フィオーレは再び歩き始めた。また呼び止められた気がしたが、もう歩みを止めることは無かった。
「……ねぇママ。私、ママがいなくなって、すごく寂しかった。ここで歌っていたのも、思い出に浸りたかったから。……でも、フィオーレには見えていたのね。私の心が。……あんな小さな子にこんな事させるなんて……私、ダメよね……」
アジトの戸を開けると、ホルマジオとペッシがすぐ見えた。
二人は血まみれのフィオーレを見て驚き、駆け寄る。
「フィオーレッ! こりゃ一体……」
「全部、返り血だ……」
目を見開き、二人は驚いている。ペッシは奥に向かって声を張り上げた。
「兄貴ッ! フィオーレが帰ってきた!」
その声に反応してか、すぐにプロシュートがやって来る。彼もまた、フィオーレを見て大いに驚いた。
「フィオーレ?! 一体何があったんだよ!」
肩を掴まれガクガクと揺さぶられる。フィオーレは虚ろな目でプロシュートを見ると、うつむいて呟くように言った。
「……まもる」
「ハァ?」
「まもる、ため、に、した。大きい、たくさん。わたし、ひとり、出来た……でも」
「?」
ポツリ、と、プロシュートは自分のズボンが濡れたのを感じて眉をひそめる。フィオーレは、うつむいたまま泣いていた。
「つめたい、すごく、こわかった。じぶんが、じぶんで、なくなる、おもった……」
グラリとフィオーレの体が傾き、彼女はプロシュートの胸にもたれかかった。
「「フィオーレっ!!」」
「……疲れて眠ってるだけのようだな……。……ホルマジオ、リゾットがいつ戻るか知ってるか?」
「あ? あぁ……夜までかかるらしいが……」
「そうか……」
プロシュートはそう言うと、眠るフィオーレを横抱きにして立ち上がった。
彼女の短い金髪をすいて、目を細める。
「…………シャワー浴びせてくる。髪の毛にまで染み付いちまってるからな……」
「兄、貴……?」
ペッシの疑問そうな問いかけには答えず、プロシュートはシャワー室に向かった。
そして、再び守ってやれなかった自分の不甲斐さに、舌打ちをした。