Long(JOGIO-Assassino)
□"まもる"ということ
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人だかりに近づくにつれ、歌声がどんどん大きくなっていく。
フィオーレは、迷路のような人だかりの中を歩き、1番前へと進み出た。
歌っていたのは15、6くらいの少女。
髪をアップにして、かなり露出度の高い格好をしている。レザーのような素材の服から豊満な胸が見えていた。
彼女が歌っているのは、フィオーレも聞かせてもらったことのあるポピュラーな歌だった。子守唄のような曲調だったので、そのまま眠ってしまったのを覚えている。
だが、少女が奏でるその歌は、同じ歌でもまるで違った。
音程が違う、歌詞が違うという訳ではない。むしろそのあたりは、ヘタな歌手よりも完璧だった。
なんというか……もの悲しいのだ。
子を安心させ眠らす歌というよりも、戦地へ赴く恋人の無事を祈る歌のようで……。
少女の歌が終わった。彼女が観衆に向かって頭を下げると、大きな拍手が巻き起こった。
礼を言う者、賛辞の言葉を送る者、そばに置いていた帽子に金を入れていく者などさまざまで、観衆は散り散りになった。
完全に輪が解けても、フィオーレはまだそこにいた。
少女がようやくフィオーレの存在に気付く。彼女は一度その風貌に驚くが、優しく話しかけてくれた。
「……どうしたの? もう歌は終わりよ。そういえば、この辺じゃ見かけない子ね……」
「……お姉、ちゃん」
「?」
「どう、して、そんな、かなしい、目、する?」
「?!」
再び少女の目が大きく見開かれる。
「うた、うたう、とき、お姉、ちゃん、目、かなしそう。うた、たのしい、ちがう?」
「…………」
少女はフィオーレから目を反らし、立ち上がって荷物をまとめ始めた。
フィオーレはその姿を追い、目を離さなかった。
まとめ終わった少女が、こちらに振り返る。
「……あなた……いったい……」
少女がその先を言おうとした、その時だった。
『キャーッ!!』
悲鳴。フィオーレと少女がそちらを見ると、いつの間にか銃を持った男たちに囲まれていた。
「……トリッシュ・ウナだな?」
「なっ……あんたたち、まさか昨日の……?!」
「答える必要は、ない。お前がトリッシュ・ウナであればそれでいい」
リーダー格らしいサングラスの男がそう言うと、すぐ近くの太った男に耳打ちをする。
「おい、隣のガキはなんだ?」
「知らねぇよ。しっかし気味悪い外見してんな」
「仕方ない……この場にいたの不運だと思って、殺るしかねえな」
男たちはジリジリと輪を詰めてく。トリッシュと呼ばれた少女はフィオーレを引き寄せた。
「……隙見て、あなたは逃げて!」
「……お姉、ちゃん、は?」
「私は自分で何とかする。あなたは無関係なのだから……ってちょっと?!」
フィオーレはぐいとトリッシュを押し退け、その前に立ちはだかり守るように両手を広げた。
「あー? なんだお前、そいつを守ろうってのか?」
「その勇気は認めよう。だが……それは無謀に変わる」
太った男がフィオーレに銃口を向ける。それだと言うのに、彼女は男に突進した。
「なっ……!」
一瞬男は怯んだものの、すぐに発砲する。爆発音が轟き硝煙が上がり、トリッシュが両目を覆うが……。
「…………えっ……?」
フィオーレは、男の胸にナイフを突き立てていた。彼女が負傷した様子は、どこにも無い。
他の男たちも、大いに驚いていた。
「が……ガボッ……」
男が血を吐いて崩れると同時に、フィオーレはナイフを抜いた。
見事なまでの赤が、男の胸から勢いよく吹き上がり、伏した男とフィオーレを染め上げた。
「…………」
ゆらり、とフィオーレは他の男たちの方を向く。傷まみれの体にべったり付いた血は、ある意味芸術的に彼女を引き立たせていた。
「ひ、ヒィッ!」
「なんだコイツ!?」
「怯むな! 打て……打てェいッ!!」
命令で、男たちが一斉に発砲を始める。
フィオーレは臆す事なく、近くにいた角刈りの男に走り寄る。
何発かの弾丸はフィオーレを襲うが、ヘイリー・ウェステンラによって傷を負うことはない。
男たちの中にスタンド使いはいないようで、なぜ彼女に弾が当たらない、否。当たっても平気なのか不思議がるばかりであった。
「……ゆっく、り……」
フィオーレが何を言ったのか確認しようとした時、角刈りの男はすでに息絶えていた。
銃声はなお鳴り止むことはない。
銃弾のシャワーを一身に受けながらも傷を負うことがないフィオーレ。
あくまでゆったりと、確実に男たちを始末していった。