DOBLEFLAP

□TURN001 訓練
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 汗で操縦桿のグリップが気持ち悪く感じた。
「ハァ……ハァ……」
 市街地戦では何が起こるかわからない。ましてや相手の隠れ家なら尚更だ。どこにトラップが張り巡らされているか分かったものじゃない。
 正面モニターを見据えたダッシュ・エヴェレストは、久しぶりの実戦に快感を覚えていた。
 今まで訓練ばかりだった。それもシュミレーションだ。久しぶりにGを感じて少々気を悪くしたときもあるが、大丈夫だ。
 高層ビルの影に機体を隠した。敵機がすぐそこにいるからだ。
 使用している機体は、オール軍が初めて量産した機体グラウス。基本スペックはトライピオのダブルフラップに劣るが、武器の性能は随一で、初めてサーベルも搭載した機体でもある。
 サブマシンガンを装備する。高速道路が視界に入った。脚部に搭載されたスピーダーを展開して高速道路まで走り抜ける。
 スピーダーは、タイヤのことであり、滑らかに走行するために搭載された機能である。
高速道路の真下に到着する。
 操縦桿を強く握った。
 この市街地でレイダーを使うと、相手に自分の居場所を伝えてしまうことになる。だから肉眼でしか敵を見つけることが出来ないのだ。
 だが、ダッシュには分かった。すぐ近くに敵の存在を。
 操縦桿を引く。それに反応してグラウスはサブマシンガンを上に構えた。
 上部モニターに高速道路の裏手が映る。
「ロックオン、撃つ!」
 銃口から凄まじい数の銃弾が放たれた。高速道路はたちまち崩れはじめ、それと同時にグラウスは後退した。
 案の定、高速道路には敵機がいたようで、三機が落下してきた。
 すぐさま近くまで歩み寄り、コックピットを確実に狙う。
「ごめん」
 そういい残し、操縦桿のスイッチを押す。コックピットを撃ち抜いたグラウスは何事もなかったかのようにその場を過ぎ去っていく。コックピットを撃たれた敵機はたちまち炎上し、爆発した。跡形もなく、砕け散った。
 人の命が、また奪われてしまった。
 いや、俺が奪ったんだ。
「仕方ないよ、戦争なんだから……」
 誰に言うでもなく、次のポイントへ向かう。ここから三十キロメートル離れたところに補給ポイントがあるが、先程壊滅したと聞かされた。
 次のポイントは南西に二十キロ。これなら近い。友軍機もいることだろう。
「よし、行くか」
 

 ダッシュ・エヴェレスト准尉。戦争が始まって二年が経った今ダブルフラップのパイロットに任命され、戦場で数々の戦績を残した。
 近々、エースパイロットの集う部署へ配属されると噂されており、彼の実力は誰もが認めるものとなっていた。
 そんな彼とクラブが出逢ったのは、市街地戦である。


「なんだ、これは?」
 ダッシュは目を疑った。友軍機が全滅している。敵機も全滅している。どちらも全滅し、様々な箇所で炎上しているのは確かにダブルフラップだ。そんな中でも、一機だけ異様なオーラを放つダブルフラップが立っていた。その機体だけが生き残っている。
 オープンチャンネルを開いて、ダッシュは接触を試みた。
「どこの者だ?どこの軍に所属している」
 明らかに、オール軍でもトライピオでもない。ではどこの機体なんだ?
 すると、ダブルフラップはこちらを見据えた。一本角を思わせる頭部。白を基調とし、蒼いラインが海を思わせる。
「まさか……クラブか?」
 突如戦場に現れた、蒼い悪魔。
「なんでこんなところに!」
 サブマシンガンを構えた。
 その刹那―!
 クラブはこちらに向かって走りながら跳躍した。そのまま回転し、上から足を頭部にぶつけてきた。
 勢いよくグラウスは横向きに倒れこんだ。ダッシュは機体を反転させ、どうにかサブマシンガンを構える位置にした。
 コックピットが、熱いと感じた。
「この!」
 焦点も合わせずに乱射するが、クラブはまるで動いていないかのように弾を避けた。
 最小限の動きで、攻撃を避けている!
「亡霊だよ、こんなの!」
 グラウスを起こし、サーベルを展開する。
「ハァ!」
 クラブもサーベルを展開し、攻撃にてんじる。
 グラウスの一突きを軽く避け、グラウスの後ろに回りこみ、サーベルを差し込んだ。
(強い!)
 圧倒的な性能の違い。いや、スピードも、パワーも、クラブは桁外れだった。
 それだけじゃない。この性能をフルに活用するのは、並の人間じゃできない。Gに耐えられない。
 じゃあ、誰なんだ。
 誰がこいつを動かしている!
 グラウスは倒れ、そのままエナジー切れをなった。
 クラブの圧倒的な力を前に、ダッシュはなす術もない。
 「やばい、殺される!」
 すばやく脱出し、機体を放棄。
 その直後クラブがグラウスを破壊し、ダッシュは爆発に巻き込まれたのだった。
 

 視界が、真っ白になった。
 

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