俺様は謎の男です
□TURN003 イタズラ
1ページ/2ページ
とある教室。
「綾里ちゃん、それはひどいなぁ〜」
「うわぁ、あなたのその言い方のほうがきもいよ〜」
綾里は、陸人をからかおうとしたが、逆にからかわれていた。
「斑神、そのナルシキャラやめたら?」「事情があるからやめれません」
「それって自分がカッコいいから?」
「え、なんで分かったの?」
「バッカじゃないの」
斑神陸人は、一言で説明すると変な人だった。
こんな人を好きになる子の気が知れない。
斑神の何処に好きになる要素があるのか。
「……ああ、次理科室じゃん」
斑神は思い出した途端、ロッカーへ向かっていった。
綾里は、陸人を嫌っていた。あの日までは。
陸人には、イケメンで何でもできる咲実という親友がいる。咲実と書いてしょうまと読む。
彼と陸人は綾里を含む複数の女子と地元の小学校に集まった。ただ会話をするだけなのだが、陸人が場を和ましてくれたおかげで皆大盛り上がりだった。
事件は、その後に起こった。
「おお、じゃあな」
みんながそれぞれわかれを告げた後綾里は一人帰路についた。彼女の家は小学校から遠く、三十分ほどかかる。夜も遅くなってきた。
まだ親が帰ってきていないであろう時間。親が帰ってくるのはおそらく1時間後ぐらいだろう。それまで、コンビニで時間を潰すことにした。
コンビニで女性雑誌を読んでいると、先ほどまで一緒にいた陸人がやってきた。
「おお、斑神じゃん」
「おお、こんなとこで何やってんの」
「暇つぶし」
「ふ〜ん」
綾里の傍までやってくると、陸人はファッション雑誌を手にとった。
「オラオラ系って似合うと想う?」
「似合うんじゃない?」
しばらく話を進める。
彼は嫌いだが、トークセンスは抜群に上手かった。
十五分ほど話して、綾里はコンビニを出た。
陸人と二人でいるところを、誰にも見られたくはない。
だが、事件は起こった。
「イタッ!」
足をくじいてしまい、綾里はその場に倒れこんでしまった。周りは薄暗く、助けを求めようにも動けない。大きな声もあまり出なかった。
「どうしよ……」
不安が募っていく。
このまま、誰も助けてくれなかったらどうしようか……
不安が、恐怖が。
その時だった。恐怖と不安にあおられていた彼女の心を救ったのは、彼女が最も嫌いとする人物であった。
「足、くじいたのか?」
斑神陸人だった。
彼は、心配してなさそうな表情で質問してきた。
「大丈夫、自分で歩ける……イタ!」
やはり、痛みを伴った。これじゃあ、まともに歩けない。
「手、貸してやろうか?」
陸人が手を差し伸べた。
だけど、綾里にはその手を掴むことができなかった。
「いいよ、別に。一人で帰る」
強がる綾里を無視するかのように陸人は膝をついた。
すると、陸人は強引に綾里を抱きかかえた。
いわゆる、お姫様抱っこである。
「ちょちょちょ、何すんの!早く帰って!」
「けが人ほって帰る莫迦がいるか」
陸人は一旦綾里をおろしてたたせると、背中を向けてかがんだ。
「おんぶしてやっから……家まで送ってやるよ」
「いいよいいよ!」
「心配なんだよ!早くしろって。俺は大丈夫だから」
陸人は綾里を見た。彼の瞳は、真っ直ぐで純真だった。
彼のゆるぎない決心が伝えられた。
「……うん、わかった」
言われるがまま、綾里は陸人の背中に身を預けた。
陸人は綾里の足を優しく掴み、立ち上がると同時に歩き出した。
「お前重いな」
「ひっど!」
「冗談だよ」
まるで、痛みを忘れさせようと陸人は口を閉ざさなかった。
「お前さ、俺のこと嫌いだろ?」
「……まあね」
「俺は、お前のこと好きだ」
「え?」
一瞬、呆気にとられた。
「だから、もう怪我すんなよ。すっげぇ心配すんだからさ」
「……ありがとう」
知らなかった。陸人が、そこまで自分のことを思ってくれていたなんて。
「……陸人って呼んでいい?あなたも、綾里って呼んでいいから」
「え?ああ、いいけど」
綾里は彼に身を任せる。
思わず自分の頭を陸人の頭にぶつけた。
「このままでいさせて。安心するから」
「……いい匂いすんな。これが女子のにおいってやつか」
「あんた、変態だったんだ」
それから二十分の間、綾里は陸人におぶられていた。