AKB48 青春ゲーム

□第七話 好き嫌い
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 直人はサラダを豪快に平らげた。
「次は肉だ!」
「絶対サラダの次お肉食べるよね、ナオ君」
「この15年間で優子からその言葉を聞いたのは35回目かな」
「え!?数えてんの?」
「適当に言っただけだよ」
 直人はトレイを持ってそそくさと去っていった。
 その間、優子は敦子と曲を聴いた。
「ナオ君の曲っていいけど、彼のこと知ってる私たちが聞くと、変な感じだよね」
 直人はこれまでの二年で四曲のシングルを出したが、どれも大ヒットした。
 直人は熱烈なデビューを飾り、今も人気を保ち続けている。
 すると直人がトレイに皿を乗せて戻ってきた。
「ステーキとケーキ!献立として成り立ってないよ!」
「まあ、いいじゃないか」
 直人は椅子に座ってステーキに豪快にかじりついた。


「ああ、おいしかった!ねえ、あっちゃん」
「うん、久しぶりにいっぱい食べたよぉ」
「いっつもいっぱい食べてるじゃん」
「あはははは、そうだったね」
 楽しそうに会話する優子と敦子の後ろでずっと直人は幸せそうな表情を浮かべていた。彼にとって、スイーツは推定一ヶ月以上食べていなかった食べ物である。
「あんな甘くておいしい食べ物を嫌う奴の気がしれないな」
「それ誰かに対しての嫌味?」
「さあ、どうだろ」
 優子の言葉を軽く受け流して直人は次に行く場所を探した。
「食べた後だから激しいのは避けないとねぇ、コーヒーカップに乗らない?」
 敦子がアトラクションのコーヒーカップを指差した。直人たちのような高校生やカップル、家族が多数体験している。
「そうだね、行こう」
 直人と優子も賛成し、3人はコーヒーカプに乗った。ただ大きなコーヒーカップに乗るだけのアトラクションだけど、カップルには大人気の場所だ。
 直人はそれほど好きではないが、2人が楽しそうにしているのを見て、ちょっとこのアトラクションが好きになったかもしれない。
 乗り終えた後は、近くの回転ブランコに乗ることにした。これは先程より客数が多く1人乗るのに6分ほどかかった。
 最初に敦子、次に優子、最後に直人の順で回転ブランコに乗った。敦子は少し怖がっていたようだが、優子ははしゃぎまくりだと言っていいほど叫んでいた。
 そして直人は、恐れず、逆に叫ばずに終わるのを待っていた。なぜなら、スイーツの食べすぎで嘔吐しそうになったからだ。
「気持ち悪い……」
 これを回避しようとして先にコーヒーカップに乗ったのに……
 回転ブランコから降りて直人はすぐうずくまっていた。
「あんなに食べるからだよぉ」
 敦子が直人の背中をさすった。
「あぁ、大分よくなったかも」
 直人は上体を起こした。
「敦子のおかげだわ」
「どういたしまして」
「ねぇ、私は?」
 優子が自分を指差した。
「君……何かした?」
「イジワルぅ」
「はいはい、優子可愛いから笑顔見るだけで可愛いわ」
「ありがと〜。棒読みだったのが気になるけど」
 軽いミニコントをしながら直人はあたりを見回す。
「次はこれがいいなぁ」
 直人はとあるアトラクションを指差した。
 クレージー・ヒュー・ストン。
 60メートルのツインタワーを急上昇したり急降下したりする激しいアトラクションだ。
 このアトラクションはすぐ乗ることが出来た。直人を真ん中に挟んで敦子と優子が席に座る。
 丁度一回9人で3人席が三つある。直人たちはその真ん中の3人席だ。
「ホントに大丈夫?もう吐かない?」
 敦子が直人を心配した。
「大丈夫だよ。そんなことより、お化け屋敷の時みたいに腕にしがみ付かないでくれよ。あん時ちょ〜痛かったからな」
「悪かったね!」
 優子が皮肉めいた口調で言った。
 それと同時に身体が浮いた。直人たちの座る椅子がゆっくり上昇してゆくのだ。次第にタワーの頂上に到達すると、椅子が止まった。そのまま静止して3秒間。いきなり急降下が始まった。何の予告もなく。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
 さすがの優子も雄叫びのような悲鳴は出さなかった。
「うお!」
 直人も少しびっくりして小さな悲鳴を上げた。その悲鳴はほんの一瞬であったため、左右の少女は気づいていない。
 一瞬の急降下は1分あったように感じられた。だけどそのスリルはまだ終わらない。急に椅子が止まったがまた急上昇していった。
 急上昇が終わって後はゆっくり降下。それでアトラクションは終わりを告げた。
「おもしろかったね。なかなかスリルがあった」
 直人が2人に言った。敦子と優子はセットした髪が少しぐちゃぐちゃになったらしく、手鏡で見て髪を直していた。
「あれ、優子も髪気になるんだ」
「あなただって今日髪セットしてるでしょ」
「まあ、そうだけど」
「せっかくセットしたのにくずれるってちょ〜嫌じゃない?」
「いやぁ、また直せばいいし」
「ナオ君、ポジティブだね〜」
「よく言われる」
 直人はそう言いながら自分の前髪を引っ張った。
 ……髪大丈夫かな?

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