AKB48 青春ゲーム

□第六話 昼食トーク
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「そろそろご飯にしない?」
 敦子が提案した。その隣で直人はうかない顔をしている。メリーゴーランドでの劇ごとが原因だ。どうやら、彼がアイドル境直人であることに気がついた客たちが、メリーゴーランドに乗っているところを写真に撮ったのだ。きっと明日にでもなったらネットで話題になるだろう。もしかしたら僕のブログのコメントに写真が載るのかもしれない。敦子か優子が移っていたら交際疑惑をかけられるかも。
 今は急遽買った帽子を買ったのでなんとか大丈夫だと想うが。
「いいねぇ、私すっごくおなかすいた」
 優子が腹をさする。彼女の食べる量は決して少なくはない。だが、敦子も決して引けを取らない。敦子は暇があれば食べるなんていうペースの食いしん坊だ。この二人を一度に奢るといってレストランにでも連れて行けば財布の中身はほぼ空になってしまう。
 直人は財布の中身を確認した。入っているのはおよそ二万円だ。直人は人気絶頂のアイドルで、給料が非常に高い。それに加え、昔は色々な人から同情されてご飯代をくれるなんてこともあった。
「どこが良い?」
 直人が聞いた。この遊園地には様々なレストランがあるが、できれば値段が安いところがいい。
 ちかくにはピザの専門店やバイキングがあり、エリアの各地に様々な食品店が並んでいる。
「そうだねぇ、あっちゃんは?」
「迷うなぁ」
 二人とも迷っていた。
「あれ?優子、さっきは敦子って呼んでたのに、今はあっちゃんって呼んでるね」
 直人が言った。それに対して優子は「あぁ……確かにそうだね」と相槌を打った。
「なんかね、呼び方なんてどうでもいいんだよね」
「それってちょっと敦子に失礼なんじゃないのか?」
「そう?」
 優子が敦子を見た。
「彼女も訳が分からないでしょ」
 直人も敦子を見た。
「……えっと……分かりにくいから、あっちゃんで。直人も……」
「いや、僕は敦子と呼ぶ」
 敦子の言葉を直人は途中で遮った。 
 今更呼び方なんて変えたくない。「ナオ君、どこで食べる?」
「僕は、なんでもいいから早く食べたい」
 実際はオムライスが食べたいという希望があるが、今目の前にいる二人の希望を尊重したかった。
「優子は何が食べたい?」
 ナオトは自分から話を逸らすために優子に問うた。
「私はねぇ、お肉をガッツリと食べたい!」
「はは、優子らしいなぁ」
 ナオトは笑った。
「でも、焼肉はここでは食べれないよ」
「じゃあ、スイーツ男子さん?お肉がある場所を教えてください!」
 肉にキマリかよ。
「スイーツ男子に肉のこと聞くなよ。まあ、そうだな」
 ナオトは遊園地の地図を開いた。「一番近いところは、あそこにあるバイキングだね」
「じゃあ、そこにしよう。あっちゃんもそれでいい?」
「うん、いいしょ。バイキングは色々あるしね」
 バイキングに決定した。直人は地図を敦子に渡した。敦子は自分の鞄に地図を入れる。
「さぁ、いこうか」
 三人はバイキングの店に向かった。 ちなみにナオトの好物は、林檎とスイーツだ。スイーツが好きなのは小学生の頃からで、唯一通っていたミニバスケットでは昼飯に必ずスイーツを持ち込んだり、食べ物で最優先するものはスイーツ、と主張したことからスイーツ男子というニックネームがついた。その頃は、タダでスイーツを奢ってもらうために試合に出て二○店決めると宣言したものだ。
 顧問がそのことを面白がって認め、彼はスイーツを十個以上奢ると言った。
 そして、試合で彼は三○点異常決めるという快挙を遂げた。一緒に出ていたスタートメンバーはあまりシュートをする機会がなかったうえに特別参加だった直人が大活躍したのだから嫉妬する者もいたが、やはり皆はナオトを褒め称えた。
 ちなみに、奢ってもらったスイーツは計二三個である。
「さぁ、ついたよ」
 バイキング店についた。そこは一人一二〇〇円で一時間食べ放題という店だ。結構人気があるらしく、五分程並ぶことになった。
 店に入ってまずお金を支払ってから食べ放題の始まり。直人たち三人は入り口のドアから一番遠い距離にあるテーブル席に座った。その席は窓に一番近く、何人かの女性が少し直人を見て二、三度振り向いた。きっと、直人がかの大人気アイドルだと気づいたのだろう。
「さきに取ってきなよ」
 直人が椅子に座った。椅子といってもソファ式で、直人は横にもれかかったため奥、つまり窓際に座った。優子と敦子はトレイに皿を乗せて、なにやら肉料理のほうに向かった。
 そんなに食べたかったのか。「ふぅ……」
 直人はズボンの後ろポケットから録音機を問いだした。ジーンズだったので少し取りにくかった。
 録音機は、遊園地に来る前から録音モードにしている。今までの音をずっと録音していたのだ。さすがにジェットコースターのときは録音機を持っていくことはできなかったが。
 直人のマネージャー詩織がこの時期に一日休暇を与えたのにはもう一つ理由がある。
 それは、記憶障害が酷くなっていることだった。もしかしたあら、敦子と優子のことも忘れてしまうのかもしれない。
 忘れるのならいっそその前に、直人を支えてくれたこの二人と思い出を作ろうと、詩織は想ったのだ。彼女は直人にとても優しい。詩織なりの、最高の配慮だ。
「ありがとう、詩織さん……」
 直人は、自分でさえもあまり聞こえないぐらいの小さな声で呟いた。
 その直後、敦子と優子が戻ってきた。
「はい、直人の分。優子と一緒にとって来たよ」
「ああ、ありがとう……って、スイーツは?」
「たまにはサラダも食べなさい。野菜嫌いは駄目だよぉ」
「僕が嫌いなのはすしと納豆だ」
 直人は言いながらも、敦子かrアサラダの入った皿を受け取る。
「次は自分で取りに行くよ」
 テーブルの端に置かれた箱の中からフォークを取り出し、サラダのてっぺんらしきところのキャベツを指した。そして素早く口に放り込んだ。
「……ドレッシングは苦手だな」
「ナオ君、好き嫌いが激しいんだよ。それじゃグルメリポーターにはなれないよ?」
「なりたくないよ」

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