AKB48 青春ゲーム

□第四話 あの夏の日
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 現在の直人は、高校三年生で好青年という印象を受けた。
 中学時代は良くモテたが問題もあったものだ。
 アイドルの仕事に追われ、直人は中々休暇を得ることができなかった。
 直人は生まれながらにして皆を魅了する特別な才能を持っている。周りの者を元気にする。そういった才能だ。
 そして統率力もあってか、グループ内ではいつも中心人物だった。
 バスケではプロ並の強さで、アイドル業をしていなければきっと選手としての偉業を果たせたろう。
 アイドルという職業は、束縛される職業だ。自由を奪われ、人気が出ればやりたいことも出来なくなる。
 中学校生活は、ほとんどの時間を仕事に費やしてきた。
 中学最後の夏休み。残り一週間で夏休みが終わってしまう。
 だが、一日も休めたことができない。
 だから、彼女は本当に女神だと想った。


「一週間後の日曜日は一日休暇よ」
「え?」
 その時の直人の笑顔は、いつもの営業スマイルなんかじゃなく、本当の笑顔だった。
 肉親の姉を亡くしてからあまり笑顔を見せなかった。
「でも、どうして急に?」
「あなただって友達とどこか遊びにいきたいでしょ。あっちゃんとゆうちゃんには言ってあるから、遊園地に行ってきなさい」
 そう言って、女性マネージャーの詩織は遊園地のチケットを直人に手渡した。
「休暇をとるの大変だったんだから、楽しんできなさい」
「ありがとう……詩織さん。僕と四歳しか違わないのに、あなたはもう完璧な大人だ」
「私を叔母さんみたいに言わないでくれる?」
「そういうつもりじゃありませんけど、気に障ったようですね」
 直人は詩織を大人というが、直人自身も年齢に似合わず大人びた少年だ。



        ○


「へぇ、結構いいとこじゃん」
 直人、敦子、優子の三人は遊園地にやってきた。
 詩織の話では、当麻と愛奈は都合上遊園地に行けないらしい。二人も誘ってくれてたなんて、やっぱり詩織さんは僕の交友関係をきちんと把握しているようだ。
「やっぱり最初はジェッストコースターでしょ!」
 優子の提案に、二人は賛同した。幼馴染である三人は、喧嘩をしたことのないとても仲良しの三人組だ。
 ジェットコースターの列はそれなりに待ったが、ようやく自分たちの番になると変に緊張してきた。
 ジェットコースターは縦に三列という形状で、優子と敦子が直人を挟むようにして座った。
「実はさ、僕遊園地初めてなんだ」
 直人の告白に敦子と優子は驚いた。
「両親が死んで、姉さんが僕と暮らすために精一杯お金稼いだけど、姉さんの仕事上遊園地に行く機会はなかったんだ」
 直人の姉は、有名なモデルだった。それなりに人気もあり、熱狂的なファンも少なくなかった。ストーカーもいた。そのストーカーに姉さんは殺された。
 そのストーカーは、今もどこかでのうのうと生きており、警察には捕まっていない。
「なぁ……ジェットコースターって怖いの?」
 ジェットコースターが動き出した。徐々に上昇してゆく。
 直人の問いに応えたのは、優子だった。
「そりゃ、怖いっちゃ怖いよね。手を挙げたら相当スリルがあるよ」
 優子がそう言いながら両手を高く挙げた。その瞬間、ジェットコースターが急降下した。
 当然優子は‘相当’なスリルを味わうことになった。
 隣で直人は安全レバーをしっかり両手で掴んでいる。初体験のスリルに興奮を覚えた。
 敦子も一言で説明するとはしゃいでいた。
「うおぉぉぉ!わぁぁぁぁぁぁ!」
 きゃぁ!という悲鳴だったら分かるのだが、優子の悲鳴は今時の女子高生のそれではなかった。無邪気にはしゃぐ子供の悲鳴だ。しかも男。
 直人の子供のような悲鳴を傍で聞きながら、ジェットコースターのスリルを味わった。

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