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□橙色の灯火を
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「いつか君を迎えに行くから、それまで待ってて」


キミは確かにそう言ってくれたんだ。

忘れなんかしない。
衝撃的過ぎて忘れられなかったくらいだから。


「約束する、絶対戻って来るって」

「本当に? 本当に戻って来てくれるよね?」

「本当だよ。だから、僕のこと信じて待っててくれる?」


真っ直ぐ向けてくるその瞳に、嘘なんかないって分かった。
キミは嘘を吐くと視線が泳ぐから、間違いなんかない。信じてもいいんだって思えるんだ。


「待ってる。ずっと、キミのこと待ってるから……!!」

「それじゃ、約束」


すっと差し出された小指に、わたしも小指を絡めた。

“指切り”って言う、約束を交わす儀式。
小指と小指を絡めて、約束を守る誓いの歌を歌う、たったそれだけの行為。


「指切りげんまん 嘘吐いたら
 針千本のーます 指切った!」


本当は最後に手を離さなくちゃいけないんだけど、離せなかった。
約束するんだから離さなくちゃって思っても、わたしもキミも、小指を絡めたまま。

ねぇ、本当に約束を守ってくれるよね?

わたしのこと、迎えに来てくれるよね?

キミは、無事に帰ってきてくれるよね……?


「……」


伝えたくても、言葉に出しちゃいけないんだ。
約束したから。だからわたしはキミを信じて待つだけ。

引き止めることも、疑うこともしちゃいけないんだ。
そうじゃないと、きっとキミの決心が揺るぐ。

わたしは長い時間をかけて、ゆるゆると小指を離した。


「待ってるからね……、ずっとずっと」

「うん、絶対迎えに行くから、それまで待ってて」


ほんの少しの間だけだけど、キミにさよならなんて言えないから。
だって少しの間だけでも、キミと離れるのは淋しい。

キミに伝えられる言葉が見つからなくて、そんな自分が情けなくて……
どうして笑顔の一つも浮かべられないんだろう。
キミの前では、いつだって可愛い子でいたかったのに。


「そんな顔しないで。指切りした約束は、ちゃんと守るから」

「……信じてるからね。信じて、待ってる」

「ありがとう」


その時浮かべたキミの笑顔が忘れられなくて。
どうしてそれに返せる笑顔を浮かべられなかったのか、今でも後悔していて。

叶うなら、もう一度あの時に戻りたい。

笑顔をキミに返していたら、こんなに苦しい思いはしなかったのかな?
キミを引き止めていたら、こんなにも泣かなかったのかな?


「……嘘つき」


迎えに来てくれるだなんて嘘じゃないか。
絶対戻って来るって言ったのに、嘘だったじゃないか。

わたしはずっとキミを待っていたのに、どうしてキミは約束を破ったの!?


「嘘つき……!!」


もう帰ってくることのないキミを想って、わたしは泣いていた。
どうすることもできない現実に、無力で後悔ばかりのわたしができることなんてない。

“キミが戦死した”

そんな現実、受け入れたくなんかなかった。





橙色の灯火を
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