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□橙色の灯火を
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流れる涙を拭うことすらしないで、わたしは白くなった自分の息にぼやけた視界をさらに見にくくして、そっと道の隅に寄った。
帰る気にもなれなくて、籠を抱えてズルズルと座り込んでしまう。
寒い、なんて麻痺した頭じゃ感じれなくて、降り積もった雪を払うこともしなかった。
「はぁー…」
赤くなった指先に息を吹き掛けると、じんじんとかじかむ。ひび割れした皮膚が痛い。
通りを行き交う人たちは皆どこか足早で、個々の足音が石畳を踏みしめるのがはっきりと聞こえた。
誰もわたしのことなんか気に止めやしない。
そんなものなんだよね、きっと。
裏路地とか歓楽街と言われる五五番街じゃよく見かけられる光景だって聞くし、わたしだって誰かに声を掛けてもらいたいわけじゃない。
キミにだけ見つけてほしいのに、キミはそれを迷惑だと思うのかな。
「答えてくれないのは、なんで……?」
そんなの、キミがここにいないからに決まってるじゃないか。
自分でも導きだせる答えに、またじわりと涙が浮かんでくる。
泣いたって何も変わらないのは分かっているのに、勝手に出てくるんだ。
あぁ、キミのことで何回泣いたかなんて、もう分からないや。
籠からマッチを一箱取り出して、籠を横の地面に置いた。
かじかんだ指じゃうまく擦れなくて、いつもみたいに一回で火が点いてくれない。
カシッ、カシッと何度も失敗する音が虚しく響いた。
「……っく……」
しゃくりあげると、目尻に溜まっていた涙が頬を伝った。
「あ……っ!」
擦りすぎて、パキリとマッチ棒が折れた。
キミは、わたしに会いたいとは思ってくれないの? 会いたくなんてないの?
真っ二つに折れたマッチ棒を捨てて、わたしは夢中で新しいマッチ棒を擦った。
カシッ、カシッと、焦って強ばった指先じゃうまく点いてくれなくて、何本も音をたてて折れてしまう。
「なんで……っ!」
一箱分折ってしまって、新しいマッチ箱を手に繰り返す。
カシッ、カシッと絶えず聞こえる擦れる音。火が点く音は、いつまでたっても聞こえてきやしない。
「どうして……っ!」
なんで火が点いてくれないの……!?
どうしてキミが見えないの……!?
「迎えに、来てよ……!!」
死んだなんて言わないで。
帰ってこないだなんてやめてよ。
嘘でしょ? 嘘なんでしょ?
だからわたしにはキミの姿が見えないんでしょ?
「ねぇ……っ!!」
また、マッチ棒がパキリと音をたてて折れた。
新しいマッチに手をのばす気にはなれなくて、疲れたように腕を下ろした。
いくら願ってもキミの姿を映す火は点かなくて。
どれだけ泣き叫んでもキミの声が聞こえてくることだってなくて。
冷たい冬の空気と静かに降り続いている雪に包まれて、わたしはがっくりと体から力を抜いた。
泣いただけなのに、ひどく疲れたような気がする。