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□橙色の灯火を
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 暗くなった街を歩くのに、怖いなんて思わない。
 飲食店以外のお店のシャッターは下ろされて、暗がりばかりの五番街は昼間とは全然印象は違うけど、それでもわたしが生まれ育った場所だ。
 怖いことなんかない。

 キミを失ったこと以上に、怖いことなんてない。


「……あ」


 頬に冷たい何かが舞い降りた。
 空を見上げれば、白い羽のような雪がゆっくりと降ってきている。
 吐く息だって白いし、指先だってかじかんで……寒くて顔が痛い。

 ねぇ、キミはどこにいるの?

 すれ違う人を目で追いながら、わたしはキミの姿を捜した。
 戦死だなんて嘘なんでしょ。
 きっとキミはなんでもないような顔して五番街にいて、気まずくて帰ってこれないだけなんでしょ。
 なら、わたしが見つけてあげないと。

 そうすれば、キミは帰って来れるでしょ?


「あ……っ!」


 後ろ姿が見えた。
 家路を急ぐ人や、家族で歩く人たちばかりが行き交う通りで、彼だけははっきりと見えた。

 薄手のコートを着て、1人で石畳を歩いているライトブラウンの少し跳ねた短髪の……


「待って……!!」


 見失わないように、消えてしまわないように。
 わたしは必死でその背中を追い掛けた。

 キミは、死んでなんかないんだ。
 だってここに……、


「待っ……」

「え、何?」


 掴んだコートの持ち主は、キミじゃなかった。
 きょとんとした顔まで同じなのに、その人の瞳の色が違っていた。


「あ、昼間ぶつかっちゃった人だよね?」


 キミにそっくりな顔した人だった。
 不思議な色の瞳さえ違ければ、キミだと勘違いしてしまいそうな人。

 あなたと出会ってしまったから、キミも生きているんじゃないかって、そう思ってしまったんだ。
 舞い落ちる雪に、あなたがキミだと錯覚してしまいそうな……。


「え、何で泣くの?」

「……ごめん、なさい」


 寒くて赤くなった頬に、涙が伝った。

 目の前で狼狽えてるこの人は、キミと同じように困っているけど、キミみたいに涙を拭ってはくれない。
 当然だ。だってこの人はキミじゃないんだから。


「知り合いに、似てたから……」

「泣くほどそっくり?」

「瞳の色だけ違いますけど、そっくり過ぎて驚きました」


 目元を擦って、無理矢理笑顔を浮かべてみた。
 だって、この人には関係ない。キミとこの人は似ているだけで、赤の他人なんだから。
 わたしが勝手に迷惑を掛けているだけだ。


「突然、スミマセンでした」

「いーえー、探してる人じゃなくてゴメンね、ミアちゃん」

「え……?」


 どうして、名前を……。
 なんでわたしの名前を知ってるの?
 名乗ってもいないのに、どうして分かったの?


「やっぱり。籠の中身でそうかなーって思ったんだけど、当たりだったね!」

「どうして……」

「有名だよ? 夢を売るマッチ売りのミアちゃん。遺族たちの希望だってね」


 にっこりと頬笑まれながら言われた。
 その顔を直視することなんかできなくて、あなたから視線を外しながら聞く言葉は、少し意外だった。

 わたしの仕事がそんな風に言われているなんて。
 遺族の希望だとか、やめてほしい。

 だって、わたしばかりが希望になっても、わたしの希望はどこにもないんだから……。
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