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□こんにちは、異世界
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 何だよこの女。
 ってか、大丈夫なのか? 頭の方ちょっとイっちまったか?
 いきなり叫ぶし、助けた事に対して礼も言わねぇし……。あ、いや別に言われたいとかそんなことじゃねぇからな。


「見慣れねぇ奴だな……。人間にしては珍しい」


 傍に居るアズラスに同意を求めると、アズラスも不思議そうに首を傾げた。


「えっと……あのっ! ここ、何処でしょうか?」

「砂漠」

「いやいやいや、それは見れば分かりますよ! 違くて! そうじゃなくて、もっとこうなんの砂漠か分かる程度に」

「なんのって……。適当に飛んできたから、良くわかんねぇんだけど」


 分かりやすいほどに肩を落とす。
 そもそも、ここがどこかと言われても、分かる奴の方が少ないんじゃねぇかと思うんだけどな……。

 というか、やけに不思議な格好をしてるよな。
 黒いセーラー服に赤いリボン。セーラー服なのになぜかスカートで、しかも丈が腿辺りまでしかない。
 なんだよ、この短さはっ! 普通足首まで隠すのが常識だろうがっ!
 まぁ、不思議なのはその衣服だけじゃない。
 その背中に掛かる程度の髪と、意志の強そうな瞳が真っ黒だったってこと。黒っぽい色なら何度か見がけたことはあるけど……、本当に真っ黒なんだよな。


「だから、あの、近いんですけどっ!」

「あ、悪ぃ」


 気付けば近くでまじまじと見てる。
 記憶にあるあの子と良く似ているんだけど……まぁ、違うだろうな。相手も覚えてるだろうし。

 ただ……なんだろうな、これ。
 自分でも良くわかんねぇんだけど……、俺の中の魔力が落ち着かない。何かこう、ざわめくような……、違うな。これは、戸惑い?
 いや、確かに戸惑ってはいるけどよ。こう魔力がざわざわと蠢いているってのは、初めてな感覚だ。


「何なんだろ。これは……」


 自分の両手をじっと見つめて、集中しようと努力する。落ち着け、と強く強く暗示してみる。


「どうしろって言うの。あたしに、何をしろって……分かんないってば」


 弱々しく呟かれた声。
 同時に溢れる、悲しみ。
 戸惑いと混じって、消えていく……引いていく、魔力の波。

 !!
 って、これはっ!


「アズラスっ!」


 思いっきり振り返ると、勘が良いアズラスはしゅるしゅると人の形をとった。
 ドラゴンの時とはまた違う、綺麗な姿をしている。
 サラサラの銀髪をなびかせて、そっと女の前に跪いた。


「……う、や……あの……」


 そいつは、戸惑いつつも顔を真っ赤にして俯いていた。
 うん、まぁ、その気持ちは分かるぞ。
 直視できねぇよな。美しすぎて見ることですら恐いよなぁ。
 俺なんかしょっちゅう怒られてるから尚更……って、そうじゃなくて。


「アズラ」

「すみませんでした。不躾なことをしてしまったこの馬鹿が」

「……は!?」


 って、おい! いきなり俺を馬鹿呼ばわりかよっ!?
 確かに、まじまじと見た俺は悪かったとは思うけどさっ!


「集中力が高いのは褒めどころなんですけど、周りのことが一切分かっていないんですよ。気分を悪くしたようなので、本当に申し訳ありません」

「いや、あの、そんなっ!」


 頭を下げるアズラスに慌ててブンブン手と頭を振る。
 もげるんじゃねぇか、その頭。
 たとえどんなことを言われようと、まぁ結局はいつものことなので特に否定も肯定もしねぇけど。
 気を取り直して、今感じたことを素直に聞いた。


「で、今のどう思う?」


 きっとアズラスも魔力の波の変化について、何かしら感じ取れたと思う。
 アズラスはゆっくりと頷いた後、やけにあっさりと言い切った。


「この方は、この世界の人間ではありません」



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