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□Level.ex ようこそ日本へ
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戦いの合間、しばしの平穏。

ビュッデヒュッケ城の部屋からきらきらと輝く湖面を眺め、イノリは目を細めた。窓を開けるとさわやかな風をはらんだカーテンがふんわり膨らみ、穏やかに波打つ。

「あぁ…平和だ…」

一時とあれど、これだけ心安らかに過ごす日々は久しぶりではなかろうか。
ご飯を食べて、鍛錬をして、だらだらと城内を散歩して、安心してぐっすりと眠る。
この穏やかさは、ルーチン化した毎日を無為に消費していた現実世界と何ら変わりない。

…そういえば、現実の世界はどうなっているんだろう。

一時の平穏にぬるく浸りながら、イノリはふと元の世界に思いを馳せた。

自分が行方不明者として捜索されていないかとか、冷蔵庫の中身の賞味期限とか、携帯電話にメールが溜まっていないかとか、テレビドラマの続きとか。ひとつ気になり始めたら、次から次へと沸いてくる。
ぽんぽん出てくる不安や下らない懸念を振り払う方法は、この世界では見つかりそうにない。
方法はひとつしかない。
それを実行するならば、戦いが落ち着いている今がチャンスであろう。

…そうだ、現実世界へ行こう。














イノリが突飛とも思える計画を企ててから数日後。
ビュッデヒュッケ城庭にて。

「とゆーわけで、我が故郷へちょっとだけ帰ります」

はち切れんばかりに膨らんだ荷袋を抱え、イノリは隊長に報告した。

「そうか」

唐突なイノリの宣言にも、ゲドは相変わらずの無表情である。淡泊な返事でさらっと流してしまったが、彼はイノリが自分の国に帰るということの意味に気付き、聞き返す。

「………異世界へ行くということか?そんなことができるのか」

「できる!と信じればできると思う!帰るために、ここ数日結構魔法の勉強したんだから。魔力強化の紋章も宿したし」

得意げに額を指さすイノリ。ゲドは、イノリが最近アーニーやジーンと話しているのをよく見かけたことに、やっと合点がいった。
しかし、異世界の門を開くという大それたことが、可能なのだろうか。真なる27の紋章の一つである門の紋章ならば話は別だが、イノリが右手に宿しているのは瞬きの紋章である。

「瞬きの紋章は、行ったことある場所ならどこでもテレポートできるもん。異世界だろうと平気平気。いつもより魔力を消耗するだけでしょ」

ゲドの懸念など気に留めず、イノリは魔法陣が描かれた白い布をせっせと地面に広げていく。それには魔力を込めた特殊な染料で細かな紋様が描かれており、魔力を高める効果がある。
イノリは魔法陣の中心に立って目を閉じた。

「まさか、今から行くつもりなのか?」

行動の早さに隊長もさすがに突っ込まずにはいられない。

「うん。すぐ戻ってくるよ」

イノリは現実世界の景色を頭に思い浮かべ、集中を高めていく。不自由な生活ではないが、刺激のない日々を送っていた懐かしい我が家を強くイメージする。
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