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□Level.ex ヴィーナス・プロジェクト!
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「ねぇ…イノリ、一体どこに行っちゃったんだろうね?」

アイラはテーブルに鎮座するソーダ水の気泡を眺めながら呟き、その沈んだ声音は酒場の喧噪に消える。


英雄戦争が終結してからしばらくの時が経った。
俺達はアイラを正式に隊に迎え、警備隊の仕事に戻っていた。情報収集やら要人警護やら簡単な任務をこなし、日々の食い扶持を稼いでいる。

このカレリアの街は、戦いの前と比べて特に大きな変化はない。
一つ変わったことがあるとすれば、他の傭兵連中が俺達に向ける視線だろうか。十二小隊は英雄戦争で本国軍と戦っていながら、ササライ神官将の恩情を受けてお咎めなし…という情報がどこからか流れているらしい。
権力者とのパイプがあることへの羨望。
嫉妬からか、本国軍に剣を向けたことを批難する声が遠くから聞こえてくる。目が合った途端に静かになるので、直接ケンカを売る勇気はないらしいが。
ハルモニアに心から忠誠を誓う者など、ここの傭兵達にはいないだろうに。こういう時だけ最もらしい文句を言う奴が見苦しく、俺は心の中で失笑した。



「あいつも色々やってるからなぁ。新しい商売でも見つけたんじゃねぇの」

先ほどのアイラの言葉に対するエースの返答はわりといい加減であり、さほど心配はしていないらしい。

イノリが俺達の前から忽然と姿を消して、既に4日経っている。

大きな戦いが終わって平穏が訪れたお陰で、傭兵の仕事は減り、同業との取り合いになりつつある。
そこでイノリは、自分の魔法を活用して金を稼いでいた。瞬きの紋章を使った、運び屋や交易だ。
愛想良く呼び込みをする姿は目立っていたし、一瞬での輸送は需要が高く結構儲けていたらしい。商人一本でもやっていけそうなものである。
イノリは隊費がカツカツだと嘆く会計係エースに稼いだ金を渡し、彼が両手を合わせて感謝する場面を何度も見かけた。

「でも、私達に何も言わずにいなくなるのは変じゃない?あの子もバカじゃない、心配されるって分かるはずだよ」

クイーンは窓の外をじっと眺めていたが、イノリらしき人物の姿は見当たらないようで、深刻な表情は解かれない。

「あまり考えたくないが…何か厄介なことにでも巻き込まれたかのぉ」

ジョーカーは言いづらそうに、しかし率直に言う。あいつが自分の身を守れないとは思えないが、正直、俺もその可能性が捨てきれなかった。
アイラは動揺し、テーブルに身を乗り出して吠えるように尋ねる。

「厄介なことって!?」

「そうじゃな……違法な物の密輸や窃盗を請け負うとか」

「おいおい、イノリにそんなことする度胸あるかよ。それより、俺はこれじゃないかって睨んでる」

エースが得意げにテーブルに叩きつけたのは、一枚の紙。真の紋章狩りのミッションの頃に出回ったイノリの手配書だった。

「あぁ、こんなのあったわね。なんか懐かしく感じるよ」

「100万ポッチの懸賞金。仕事のない傭兵がイノリをふん捕まえて本国に送る。どうよ俺の名推理」

「でも……これはとっくに取り下げられている。仮にそれを知らずに本国へ連れて行かれたとしても…すぐ戻ってくるはず…」

名推理とやらをジャックに静かに論破し、次いで推測を語る。

「………ただの…武者修行、とか」

もし本当にそうだとしたらどんなにいいことかと思うが、安穏な想像に誰も首を縦に振ることはない。
流れる重い沈黙。周囲の楽しげな客の声が急にはっきりと耳に入ってくる。
どうやらそろそろ手詰まりらしい。

「少し、外に出てくる」

談義を聞いていた俺は、席を立って告げた。

「イノリを探すんですか?もう街中はあらかた探し回りましたよ」

「もし俺が数日帰って来なくとも、気にするな。飲み過ぎるなよ」

心配そうな顔をする隊員達に念を押し、俺は酒場を後にした。
外はまだ明るい。少しでも手がかりを見つけて、あわよくば見つけ出して連れ帰り、小言のひとつでも聞かせてやりたいものだが。
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