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□Level.22 さけび
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ハルモニアへ出発してから小一時間後。
「ただいま!……って、まだやってたんだ?」
遠き地への短い用事を終え、イノリはテレポート魔法でササライと共に出発点である本拠地の図書館に戻ってきていた。見送られた時と変わらず、そこには仲間達が揃ってぐだぐだと寄り合いを続けていた。
飲めない酒ばかりが机に並び、手持ち無沙汰となっていたアイラが真っ先にイノリに駆け寄ってくる。
「早かったな!改めて思うけど、瞬きの紋章って本当に便利だね」
「ちゃんとハルモニアに行ってきたって証拠に、お土産でも買ってくるべきだったかな?」
「その紋章があればいつでも行けるんでしょう、別にいいさ。…それで、首尾は?」
クイーンは忌憚なく尋ねてきた。恐らくイノリの溌剌とした第一声と表情で、良い結果を得られたと察したのだろう。
「レベルアップして帰ってきたよ。さっきの仮定の話の通りに、石版に封印されていた力を私の身体に移すことができた」
「まさか本当に上手くいくとは…こりゃあ幸先が良いな」
エースも珍しくそれなりに飲んでいるようで、祝い酒のつもりであろうか、新たにワインボトルのコルク栓を引き抜いていた。
ぐでんぐでんのジョーカーに至っては、なんとササライに絡み始めている。
イノリは机に出しっぱなしにされている、問題解決のヒントとして大いに貢献した童話の本を棚に戻しながら、呟いた。
「次の戦いは…勝てるよ、絶対」
小声ながらも言い切るイノリに、ササライは神妙な面持ちで尋ねる。
「それはもしかして…未来予知ってやつかな?」
「ま、そうなってしまいますけど……お城の皆の意気盛んな様子を見てたら、未来が分かるとかそういうの関係なしに、勝てるって思えます」
豪語するイノリに続いてエースの口からは、へーえ、と間延びした声が漏れた。
「それなら、別に戦いの準備なんて適当でも大丈夫ってことだな」
「あのね…私は勝てると言っただけ。怪我しない、死なない、とは言ってないけど?」
「うっ…お前、嫌な奴になったな…」
エースが静かになったところで、先程から硬いものが擦れ合う音がしていることに気付く。
イノリがその音の方へ顔を向けると、ジャックが砥石で矢尻を磨いでいる。
「……戦いに早く決着をつければ…無駄な血を流さずに済む。そのためには…準備を万全にしておくことも大切だ」
研き上げられた矢尻のきらめきが、彼の戦いに臨む意識の高さを感じさせた。これは自分も負けてはいられない、とイノリは手元に大剣を呼び出す。
「私もそう思う。…よし、ちょっと外で戦闘訓練でもしてこようかな!」
「そりゃ殊勝な心掛けじゃのお。だが、出撃が近いから程々にな」
「分かってるよ。本番前にケガとかしてたら元も子もないしね」
イノリが扉の方へ向かい、廊下に出ようとした時。
「イノリ」
呼び止める声。イノリは上体を反らし、その低く落ち着いた声の主を見る。
「うん?何、ゲド?」
「……後で俺の所に来い」
いつもの無表情で短く告げる彼に、イノリは特に呼び出しの理由を聞くこともなく、
「了解!」
朗々と定型化された返答をするだけで、一人図書室を出て行く。決戦の日まであと少しという状況が、自然とイノリの足取りを力強いものにしていた。