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□Level.19 すくい
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戻りたいと願っても、身体はそれを許さない。イノリは魔法の力で従わされ、ルックとセラと共に、セナイ山を下っていた。

「ねえ、今からどこに行くの?いつもみたいにテレポート魔法で移動しないの?あ、もしかして魔力使い果たしたとか」

今まさに連れ去られている最中なのだが、イノリの中に緊張感という三文字はない。

「君…少しは静かにできないのかい?」

ルックもイノリに感化されてしまったのか、威圧感というものを脱ぎ捨てていた。

「無理だよ。あなたと話を出来るせっかくの機会だし。…っていうか、こんな傷で歩かされたら、私そのうち死にそうだよ」

真なる土の紋章の力をもろに食らったイノリは、身体の至る所から血を垂れ流していた。地面には赤い跡が点々と続いている。

「…そうだね…君も僕と同じで、老いることはないけど…それは不死ということではない」

イノリは言葉そのものに殴られるような、大きな衝撃を受けた。一瞬で頭の中が真っ白になり、背中に戦慄が走る。

「……え?今…何て言った?気のせいかな、私が老いることはないとか聞こえたような気がするんだけど…聞き間違いだよね」

「聞き間違いじゃないよ。君は不老だ」

「う…うそ…!うそ!冗談きついよ!真の紋章を持っている訳でもないんだから…」

「種族が違う…と例えれば理解できるかい?人間とエルフの成長速度は違う。君もそれと同じさ。異世界人の君は極端に成長が遅く、この世界では歳を取らない」

彼を信じたいという気持ちがあり、この世界における自分が普通の人間ではないという自覚もあり、更に妙に説得力のある説明をされた。
イノリの気持ちが否定から納得へと移り変わっていくのは、思いのほか早かった。

「分かった…あなたの言葉を信じる。いきなり不老だなんて言われて…喜べばいいのか泣けばいいのか、よく分からないけど…それにとらわれずに、私は私らしく生きたいと願うよ」

「……そうかい。せいぜい頑張りなよ」

ルックはセラに目交ぜし、彼女の治癒魔法をイノリにかけさせた。
彼はイノリがセラに親しげに礼を言うのを見て、口から大きな溜め息を押し出す。

「しかしこうして見ると…何だか君が『異世の女神』だというのが、疑わしくなってくる…」

「どうして?」

「この世界に馴染みすぎている。威厳もへったくれもない」

彼のお得意の毒舌がぐさりと心に刺さるが、イノリはめげずに言い返す。
今のイノリが自由に出来ることは、言葉を発することだけなのだ。

「……し、仕方ないでしょ。あなたは『異世の女神』とか言うけど、この世界に来る前は、普通の人間だったんだから」

「だろうね。君の魔法の使い方、力任せで素人っぽいし」

再び吐き出される毒舌。しかも今度は、鼻で笑うという要らないおまけ付きである。
しかしイノリは喋ることを止めない。
ついでに少し真面目な顔になった。

「あなたが私の魔法…『異世の力』を求めた理由は、あなたの目的のために大きな力が必要だったから……だよね?」

「ああ、そうだよ」

「今、あなたの元には真の紋章が三つもある。なら、私の力はもう必要ない筈だよ」

「そんなことはない。手駒は少しでも多い方がいいからね…僕の目的のためには」

ルックの表情が、ほんの少し陰ったように見えた。
本来彼は、自由で軽やかに吹き抜けて行く、風のような人だったとイノリは思う。そんな彼が変わってしまった理由も、心得ている。それでもイノリは問いかけた。

「あなたは…あなたがやろうとしていることを、正しいと思っているの?」
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