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□Level.ex あるひ(AM)
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「うーん………平和だなぁ……」
船の甲板の上で青空を振り仰ぐイノリ。
船と言っても、ビュッデヒュッケ城に衝突してそのまま放置されて、船としての機能を失っている船である。
無人で持ち主不明のその船は、どうしようもないからと、船室を改装して城の客室として使われている。
イノリ達もそこを借りて起居し、しばらく心穏やかな日々を過ごしていた。
「あ!イノリさん、こんにちは!!」
「こんにちは、セシル」
ぶかぶかの鎧と兜を装備して現れた元気な少女に、イノリも笑顔で対応する。
「ここでの生活は、慣れましたか?」
「おかげさまで。壁に穴が空いてるのは少し気になるけど…いいお城だよね」
「はい!自慢のお城です!」
いつも城の門の前に立っている彼女が、こんな所にいるのは珍しい。そのように思えたイノリは、問い掛けた。
「門番のお仕事はお休みなの?」
「はい!ちょっとだけコロクに代わって貰ってます!」
「コ、コロクに?…そうなんだ…」
「最近、凶暴な魔物が多くて大変です!」
眉を寄せるセシルだが、はきはきした口調のお陰で、あまり大変そうに聞こえない。
「凶暴な魔物…?」
普通、ゲームといえばシナリオが進むにつれてレベルが上がるものだ。
そしてそれに伴って、敵も強くなる。
もしかすると、そのゲーム的な要素が関係しているのかもしれない、とイノリの頭に下らない推理が浮かんだ。
誰にも理解されないと分かっているので、絶対に口には出さないが。
「皆さんが、いつ戦いになるか分からない上、魔物にも怯えて過ごすなんて…私は嫌です!だから、城の外を巡回しながら魔物を退治してました!」
城にいる皆に笑顔でいてほしい。彼女の言葉からは、そんな想いが溢れていた。
「それなら、皆安心して過ごせるね。ありがと、守備隊長。ケガしなかった?」
「大丈夫です!トーマスさまとジョアンさんとエミリーさんも一緒でしたし」
「す、すごく強そうなメンバー…」
「魔物退治で少し疲れたし汗もかいたので、お風呂でさっぱりしようと思って…」
「あぁ、それでこっちに来たのね」
リラックスできると評判の風呂は、今二人がいる船の中に設置されている。
「はい!あ、そうだ!よかったらイノリさんも一緒に入りませんか?お風呂」
「んー…そうだね、ご一緒させて貰うよ」
たまには明るいうちに湯船に浸かってみるのも、いいかもしれない。イノリには断る理由がなかった。
「では、行きましょう!!」
楽しそうに拳を突き上げるセシルと共に、イノリは大浴場の暖簾をくぐっていった。