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□Level.9 ひみつ
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「はあ…はあ…はあ…」

走っている。
全力で走っている。
何故走っているのか。言うまでもない、追われているからだ。

イノリとゲドが捕まっていた部屋から出て脱出を企てていると、負傷した衛兵の報告を受け、様子を見に来た他の衛兵に見つかってしまったのだ。

こちらに地の利などない屋敷の中で、追いかけっこの追われる側、というのは厳しいものだった。
しかし、厳しいからといって捕まるわけにはいかない。

「…………」

ゲドは息を上げることなく、イノリの前を年の割に敏速に走っている。
走る時すら寡黙である。
こんな112歳の人間は見たことがない。

「はあ、はあ…っ…」

イノリは登り坂に差し掛かったマラソン選手のように苦しそうに息を切らし、時々後を振り返りながら走る。

振り返って見れば、5メートル位後で「待てー!」と怒号を飛ばす衛兵が数人。

…待てと言われて待つ人間がいるものか。
素直に待つのは躾の行き届いた犬くらいだ。


イノリ達と兵達の距離は縮まることもなく、広がることもない。
幸か不幸かずっとその距離を保っていた。

とはいっても、分はこちらにあるだろう。
掃除に手間の掛かりそうな長さの廊下の突き当たりで、際立って派手な扉が二人の到着を今か今かと待ち構えていた。
侵入時に使用した裏口だ。

このまま逃げ切れば、屋敷内から脱出出来る。イノリは殴られた体のあちこちの痛みを堪えて足を速めた。







「はぁ…はぁ、やっと……出られる…」

裏口の扉は、もう目と鼻の先だった。
あまりの有り難さに後光が射して見える。

「…追いつかれるぞ。急げ」

「了解」

ゲドが扉の前に先に着き、取っ手を回す。
そのまま押すと、ガチャンと小気味の良い音が鳴り、扉は難なく開かれた。
どうやらイノリ達が脱走する事は想定されていなかったようだ。詰めが甘い。
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