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□Level.8 つばさ
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「ねぇ…結局あの紋章もどきって、何だったの?」
イノリは、捕まる前に探し当てた石板のことを頭に思い描いていた。
文字は確かに読めたのだが、その文章の意味を捉える事が出来ず、イノリは自分の知識の貧しさを痛感していた。
今考えると、あれが本当に真の紋章に匹敵するものなのかどうか怪しいものだ。
「真の紋章に並ぶ」という言葉は何とか読めたが、思い返してみれば、あからさま過ぎて胡散臭い。
…もっとよく観察しておけばよかった。
そんな後悔も今や後の祭りだ。
「…お前、自分で読み上げていただろう」
そう言ってゲドは、会話を終了させようとする。しかしイノリは冷たく突き返されても、めげずに再度訊ねた。
「むぅ…頭が悪いからあんまり意味が解らなかったのよ…!内容を覚えているなら、ちょっと教えてくれない?」
「頭が悪い」と自分で言うのは何だか…否、かなり惨めだったが、イノリにはそんな惨めさよりも、紋章もどきへの好奇心の方が圧倒的に大きかった。
「………………………………………………あの石板に封印された力は…」
無視を決め込んだのかと思う程の沈黙の後、深みのある声が語り始めた。
「力は…?」
イノリはキラキラした期待の眼差しでゲドを見つめながら、続きを促す。
「…異世界の人間にしか解放出来ないらしい」
「はい…?」
停止するイノリの思考。
…今、何て言った?異世界の人間?
そういえば私も異世界の人間なんじゃ…。
「それって……」
どういう事?とイノリは更に訊ねようとしたが、それは突然乱暴に開かれたドアの音に阻まれる。
「誰っ!?」
大事な事を聞こうとしているこのタイミングを邪魔した闖入者の存在を察知し、イノリはどうやっても開かなかったドアの方に振り返る。
イノリはその視線の先にいる者を一瞥しただけで、敵と判断した。
さっき囲んできた兵とはまた違う、二人組の衛兵がイノリとゲドの前に歩み寄り、品のない笑みを浮かべて見下ろしている。
「お前らかぁ?間抜けな泥棒ってのは」
衛兵Aが馬鹿にした口調でイノリの顔を覗き込んできた。重要でないモブキャラはアルファベット呼称で十分だろう。
「…私達の事、どうするつもり?」
「俺等の気分次第さ。今すぐ逃がすか、今すぐ殺すか、干涸びるまでこのままか」
ははは、と衛兵AとBの嗤笑する声が癪に障り、イノリは上目で睨み付ける。
「…………最低ね」
「あぁ?悪いのはそっちだろうが。生き延びたいなら命乞いでもしてみたらどうだ?」
…どこかの狂皇子ならまだしも、こんな小物に命乞いなどしたくない。