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□Level.8 つばさ
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イノリの前向きな提案は、ただの悪足掻きでしかない。

任務が汚い仕事である以上仕方がないのかもしれないが、仕事をこなしておいてこんな目に遭うのがイノリには納得出来ず、足掻かずにはいられなかった。
そして、依頼人の根回しの甘さを恨まずにいられない。私兵も買収しておくべきだったのではなかろうか。

「……………」

「…扉が開いた瞬間に飛び蹴りするとか」

「……………」

「魔法で攻撃するのはどうかな?」

「…………今回の仕事の依頼人は、」

「あ!魔法で壁壊した方が…………え?」

沈思黙考していたゲドが言い掛けた言葉を、イノリは危うく聞き逃す所だった。

「…今回の仕事の依頼人は政治的な地位を持つ人物だ」

プチ情報よりこの状況を打開する策に期待していたイノリは、少し肩を落としつつ言葉を返す。

「確かに普通の人がこんな仕事は頼まないだろうけど…それがどうかしたの?」

それは、決して無益な情報ではなかった。

「コンタクトが取れれば、この程度の罪……揉み消してくれるさ」

「ふぅん…って、えぇ!?揉み消す!?」

まさに外道である。依頼人とは誰なのか気になる所ではあったが、イノリがゲドに聞いたことは、それではなかった。

「…つまり…私達が警備隊か何かに引き渡されて牢に放り込まれるまでに、そいつと接触出来る……って事?」

「あぁ」

「………成功する確率は?」

イノリは息を呑み、ほんの少しの期待を込めてゲドの目を見る。

「二割だな」

彼は重要な意味を持つ数字を容易く割り出した。このまま罰を受けるために護送されたとしても、二割の確率で助かる。
しかしイノリの感覚では、それはあまりいい数値ではなかった。

「…リスクが大きいね」

「……そうだな」

「依頼人さんを頼るのは最終手段にした方がいいね。……二人で知恵を合わせれば逃げ出せるよ、きっと。そうだよね!」

拳を振り上げようにも腕は縄で胴体と一体化しているため、イノリはブーツで冷たい床を叩き、心を奮い立たせた。

「………あぁ」

ゲドの短い返事に大きな安心を覚えるのは、一体何故なのだろうか。それを今考えたところで、事態が好転する訳でもない。
イノリはただ、この状況を打開する策が思い付かないかと、頭を捻るのだった。

EX項「反省会」「その頃、ゼクセンにて」→18ページ
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