player:prayer

□Level.2 であい
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イノリの目の前の人物は、寝る前にプレイしていたゲームに、確かに登場していた。

力も魔法も強く、使い勝手の良かったそのキャラクター。主人公の一人。
名前は、ゲド。

「ああぁぁ…!」

イノリは地面にへたりこんだまま、変な声を出す。

「…………大丈夫か」

ゲドらしき人は、低い声色でイノリに一言だけ、言葉をかけた。

「は…は、はい!」

イノリの声は裏返ってどもる。
彼の、他人を寄せ付けないような雰囲気。
こちらが一方的に知っているだけの遠い、寧ろ本来有り得ない筈の存在との出会い。
緊張で、嬉しさで、胸が高鳴る。

「…本当に大丈夫か?」

今の言葉はイノリの慌てぶりか、腕に負った傷か、どちらに言ったのだろうか。
イノリは無事であることを示すために立ち上がり、今度は落ち着いて返事をする。

「…うん、平気」

「……………………」

ゲドはイノリの言葉とは逆に、未だにだらだらと血を流すその腕をじっと見る。
やはり彼は、口数は少なく殆ど無表情だ。

「…腕を、見せてみろ」

「へ?」

素っ頓狂な声をあげたイノリは、熱を持ってズキズキと痛む傷を、色んな事が有りすぎてすっかり忘れていた。
怪我をしたことを思い出すと、同じく思い出されたように、傷に痛みを感じるようになってきた。

「治してくれるの?」

「…応急処置なら出来る」

イノリが腕をゲドの前に出すと、彼は皮袋から真っ白で清潔な包帯を出した。
彼は赤く染まるイノリの傷口を、器用に包帯で覆っていく。

「い…っ、痛っ…!」

「…我慢しろ」

丁寧に巻いてくれているのだが、彼の手が触れる度に腕が痛み、イノリは唇を噛む。
何せイノリも多感な年頃の女子だ。
異性に傷の手当てをしてもらって何も思わない訳がなく、妙な緊張感と無言の威圧感に、終始落ち着かなかった。


…きっと私は、データをセーブ出来なかった事がよほど悔しかったんだろう。
だからこんな無茶苦茶な夢を見てるんだ。

「…終わったぞ」

一人で納得して頷いているイノリの腕を、ゲドはゆっくりと下ろさせた。

「あ、ありがとう…」

イノリは小さく頭を下げ、包帯の巻かれた自分の腕に目をやる。傷が少し圧迫されて出血が治まってきたようだ。

「あの…さっきの奴、やっつけてくれたんだよね?」

「…まぁな」

「ありがとう。助かったよ」

「…気にするな」

「…………」

「…………」

「…じゃあな」

短い沈黙の後、ゲドはイノリの来た方へ歩きだそうとした。
折角人に出会えたのに、逃がす訳にはいかない。今の状況を確かめなきゃ、と思いイノリは、

「ちょ、ちょっと待って」

痛みの残る腕で彼の服の袖を掴んだ。
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