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□Level.15 ほのお
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ダックの村。透き通った湖の上に作られたその村は、木で作られた橋が、村のそれぞれの建物を結んでいた。
温厚なダック族の暮らすほのぼのとした村だが、一行は観光をしに来たのではない。

イノリ達は、尾羽が立派だと言われる村長を何とか探し出して事情を説明し、負傷者の手当てに必要な物を集めさせていた。
だが、ダックの村は平和で小さな村だ。
薬も包帯も、予想される負傷者の人数に間に合う程の数は、準備出来ていない。

どうすればいいのかと悩んでいるうちに、退却した兵達がどんどん村になだれ込んで来ていた。
負傷者が運び込まれる度、橋に染みていく血痕が、痛々しかった。




「負傷者は、こっちに来て下さーい!」

イノリは救護活動に積極的だった。
目を覆いたくなるような深い傷も、恐れを振り捨てて処置を施した。
さすらいの医者と看護師が現れてくれれば少しは楽になりそうだが、現実は厳しい。
もはや助からない致命傷を負った者を見切る、という選択を何度も迫られ、イノリは苦しんだ。
戦争とはこんなにも酷なものなのか。心で嘆きながらイノリはせっせと手を動かす。

傷口にガーゼを当てた上に、包帯をぐるぐる巻き付ける。
噴き出すような出血ならば、傷口から心臓に近い動脈のある場所を布で圧迫し、血流そのものを抑制させた。
出来るだけ傷口を心臓より高い位置に保つように、と一言添えるのも忘れない。

「はい、終わり!じゃあ次の人……あ」

血で汚れた手を湖水で洗ったイノリが、処置を待つ負傷者の方に向き直り、驚いたような声を上げた。
イノリは、一方的に知っている人物、つまりは宿星を持つ人物に出会うと、一々こんな反応をしてしまう。

「…何だい?グラスランドの民を助けるのが嫌だと言うならば、他をあたるよ」

褐色の肌の彼女は、イノリの反応を、グラスランド人に対して悪感情を持っているからだと、勘違いしたらしい。

「何言ってるんですか。怪我人は怪我人。グラスランドもゼクセンも関係ありませんよ、ルシアさん」

イノリは15才の息子がいるとは信じられない、美しき族長の負傷の程を確認し、早速手当てをしようとした。
だが、懸念を抱いていた事が起きていた。

「……足りない」

想像していた以上に戦傷者が多く、応急処置に必要な清潔な布も包帯も、使い果たしてしまったようだ。

「? …どうしたんだい?」
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