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□Level.7 あきす
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ごろんと寝返りを打つと、ベッドの軋む不快な音が耳につく。
その音に心地よい眠りを妨げられて、イノリの頭は覚醒してしまった。

…それにしても、凄い夢を見ていた気がする。誰かに教えたい程、楽しい夢。
欲を言えば、もう少しその世界を楽しみたかった。

「ぅ…うーん…」

呻きながら重い目蓋を開けると、自室ではないが見覚えのある天井の質素な壁紙が、イノリの視界いっぱいに広がった。

…どこだっけ、ここ?

窓の外に植えられた樹の間からは、日の光が優しく差し込んでいる。
イノリは思い出した。そこでジャックと衝撃的な出会いをした覚えがある。
そう、ここはカレリアの宿屋だ。

どうやらまだ自分は寝呆けているらしい、とイノリは目を擦った。

「……起きたか」

低い男の声だった。

…誰?

イノリは伸びをしながら上体を起こし、まだぼんやりと霞む目をもう一度擦る。

まだ夢から醒めては、いなかった。
否、これがイノリの現実だ。

「おはよう、ゲド…」

腕を組んで椅子に腰掛けている隊長に、朝の挨拶をするイノリ。
しかし今は何時なのか分からない。

「体の調子はどうだ?」

「うん…わりと大丈夫」

意識を失う直前までの記憶がイノリの脳内を駆け巡り、今まで眠っていた理由に繋がっていく。

…そうだ、ルックと戦ったんだ。それで完膚なきまでにやられて、意識が飛んで…。

何かが変だ。イノリはその違和感に気付き、自分の身体を観察するように眺めた。
そう、かなりひどい怪我を負った筈なのに、傷跡がどこにも見当たらないのだ。

「神官将と一緒に居た女を覚えているか?」

唐突に尋ねるゲドに、イノリは困惑した。
彼が言っているのはセラのことで間違いないだろうが、彼がそれを尋ねる理由が分からない。

「うん、覚えてるけど」

しかしイノリは素直に頷く。

「……あの女が、お前に治癒魔法を掛けていった」

…何だって?

イノリは彼が発した言葉を反芻する。

「……え、ええぇ!?そうなの?」

どんな理由でそんな事をしたのだろうか。
きっとその真意は、彼女に直接聞かねば分からない。
だが、理由として一番しっくりくるのは、同情して慈悲をくれた、という所だろう。
本当にそうであるならば感謝したいが、イノリは何だか悔しさを感じるのだった。
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