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□Level.2 であい
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一体、今日、何回目のピンチだろう。
だがそれは全てイノリの不注意や調子に乗った結果だ。つまりは自業自得である。

ビュン───

魔物が爪で空を裂く音が聞こえた。それは、もうすぐイノリの身体を裂く。

…あぁ……死ぬな、これは。
さよなら、夢の世界。
もう少し遊びたかったかな…。

固く目を閉じたままで、イノリは夢の世界に別れを告げた。
直後聞こえたのは、肉の切り裂かれる、湿った嫌な音。

イノリは何も感じなかった。
切り裂かれても、痛くも痒くもなかった。
呼吸だって出来るし、血が噴き出すような感覚もなかった。
死ぬ、ということはこんなにも穏やかなのか。まるで身体が全くの無傷であるかのように。



…違う。おかしい。
そう、どこにも傷を負ってなんかいない。
斬られたのは、私の身体じゃない。



ギャア、と奇怪な悲鳴。

…私の声じゃない。私は叫んでいない。
だから、多分魔物が斬られて叫んだんだ。

そう信じたくて、確証を得たくて。
イノリは恐る恐る瞼を開く。


イノリに襲い掛かろうとしていた魔物の姿は、なくなっている。
しかしイノリの目の前には何かがいる。

人間のように見えた。

それは、さっきの魔物が化けたのか、さっきの魔物を倒したのかは分からない。
もちろん後者だと信じたいと思ったイノリだが、その怪しい風貌に、緊張をほぐせずにいた。


その人間は黒い衣服で身を包んでおり、胴には鞣した革の板を繋ぎ合わせた防具を着けていて、腰には剣をさげている。
髪は肩に付くか付かないかという程度に無造作に伸びた漆黒の髪。
右目は黒い眼帯で隠されている。
左目も深い闇のような黒だ。

また、既視感があった。
イノリには、こんな感じの人をつい最近何かで見掛けたような覚えがあった。
そして自分の記憶に疑いを抱いた。

…見掛けた?どこで?
こんな格好をした人が外を歩いている訳がない。いかにもアニメやゲームといったメディアの作品に出てきそうな風貌だ。

ゲームの中。答えはそこにあった。

…そうだ、思い出した。

イノリの頭の中の靄がすっきり消える。

…この人は、
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