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□Level.ex ヴィーナス・プロジェクト!
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カレリアを発ち、クリスタルバレーへと続く街道を進む。
途中、乗り合いの馬車をつかまえることが出来たので、目的地への到着は予想より大分早まりそうだ。
馬車に揺られていると、「異世の石版」の調査の後イノリと共に馬車に乗り追手を撒いたことを思い出す。
あいつが異世界人だと発覚した時は、さすがに驚いた。


初めて出会ったはずなのに、俺の名を知っていたイノリ。
謎だらけのあいつが気になって、その正体を見極めようと思ったのが、あいつを仲間に入れたきっかけだった。
害をなしそうな怪しい奴なら即刻締め上げるつもりだったが、全くそんなことはなかった。

あいつの謎が明らかになっていくのと平行して、英雄戦争は佳境に入っていく。
百数年生きてきて初めて出会うタイプの人間であるイノリのことを知るのは、初めて読む冒険譚のように新鮮で刺激的だった。
戦いは辛い部分が多かったが、大切なものを守るために戦うのは、今思えばある意味充実した日々だった。
イノリを支え、俺自身もイノリに支えられ、あいつの存在は、俺が生きているという実感をより大きくさせていた。

そんなふうにイノリとの出会いと戦いの日々を回顧して目を閉じると、脳裏にあいつの色々な表情が浮かんでくる。笑った顔、怒った顔、悲しげな顔、驚いた顔、何かを考える顔。全ての表情が、いとおしい。
イノリの無事と再会を祈りながら、俺はそのまま軽いまどろみに沈んでいった。








久しぶりのクリスタルバレーは、どことなく空気がぴりぴりしているように感じた。鉛のように重い緊迫感。これも、貴族どもの下らない派閥争いの影響だろうか。
馬車で乗り合わせた市民の情報によると、各派で連日のように、対する派閥を牽制するための会議が行われているとのことである。会議とは言っても、対派への罵詈讒謗を話題に晩餐をするというお気楽なものらしいので、潜入は難しくはなさそうだ。

俺は貴族街から離れた位置にある宿に荷物を預け、専門店で神殿派の会議に潜入するための装備を整えた。
それは意外と痛い出費だった。素材がいいからというのもあるだろうが、貴族階級の物価がいかに高いか窺える。
全てが収まったら、イノリに代金を請求したいほどだ。
今の俺の姿を見たら、あいつにどんな反応をされるだろう。少々の期待と不安が胸を掠める。
もう西の空は朱くなり、洗練された家々を同じ色に染めている。落日に急かされるように、俺は神殿派筆頭の貴族の屋敷を目指していった。






神殿派の集会が行われているという屋敷は、貴族街の中でもとりわけ立派だった。
色鮮やかな煉瓦造りの豪邸は他を圧倒する存在感を放っており、窓という窓が丁寧に磨き上げられたように輝いている。
広大でありながらしっかり手入れされた庭を横目に、俺は何が起きても反応できるよう気を引き締めて玄関をくぐった。

目の前に広がる、格調高いエントランスホール。
華やかに飾りたてられた調度品は、ここが王宮だと言われても納得してしまいそうな豪華さだった。
細かな装飾のテーブルが十数卓並べられており、それを囲む貴族達は酒と料理を嗜みながら、陽気な鳥のように騒がしく談笑している。

どうやら、気を引き締める必要はそれほどなかったかもしれない。既に出来上がっている貴族達に俺はそれほど警戒をせず、襟を整えて悠然と屋敷内に足を踏み入れた。
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