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□Level.ex ヴィーナス・プロジェクト!
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傭兵仲間や商人達に話を聞いて回ったが、有力な情報は得られない。
デューク達に聞いても、普段なら知らん顔をしそうなものだが、俺の顔を見て非常事態だと悟ったらしい。
イノリ捜索に協力を申し出てくれたが、「俺が見つけたら俺と一騎打ちをしろ」とか面倒な条件をつけてきたので、なるべく先にイノリを見つけ出したい。
商人達はイノリの能力をかなり買っていたらしく、その姿が見えなくなったことを嘆いていた。
露店の並びの陰に入り、階段を登る。そこのこぢんまりとして目立たない店は品揃えの悪い果物屋のように見えるが、俺が今一番必要としている物を売っている。
果物屋を装った情報屋。店主は俺を見るなり、俺の目的を見定めるように一瞬目を鋭くし、人当たりのいい笑顔を貼り付けた。
「おや、ゲドの旦那。久しぶりじゃないか」
「今は何が出ている?」
「旦那の探しているものは、悪いが置いてないねぇ」
情報屋は俺が店に来た理由を察し、かぶりを振る。しかし袋小路に入りかけている俺も、引き下がる訳にはいかなかった。
「何でもいい。入ったばかりの物があるなら、教えて欲しい」
「……分かった。旦那のとこのお嬢さんには俺も世話になったからな。特別、大サービスだ」
相変わらずの恩着せがましい言い方をして、情報屋は肩を竦める。
「すまんな」
「じゃあ、とっておきのをひとつ。…どうも、本国の方で派閥争いが激しくなってきているらしい。民衆派が勢力を強めて、暇を持て余した傭兵達を雇い入れているとか」
ハルモニアの貴族階級では、昔から派閥争いが絶えない。
ヒクサクの絶対統治を支持する神殿派と、神殿による神事と民衆による統治の両立を目指す民衆派。
二つの勢力が長らくしのぎを削っている。
確かにイノリが貴族にヘッドハンティングされるというのもあり得なくはない。腕が立つから要人警護には手頃だし、あの容姿ならむしろ社交界の華として表舞台に立つこともできるだろう。
しかし、いずれにしろ俺達に黙っていなくなるのは不自然だった。
「あんたも、仕事で貴族さんの護衛とかやってただろう?最近ここいらでそういう奴がうろついてたのは、傭兵を引き抜くためだったのさ」
「…なるほど。確かに俺達も貴族に声を掛けられた。性に合わないから断ったがな」
「なんだい、それならこの情報はあまり意味がなかったな。ちなみに、対する神殿派も密かに動いているらしい」
今日の情報屋は、珍しく情報を出し惜しみしない。よほど、イノリの商売が彼の商売の助けになっていたと見える。
「ふむ…いずれ内戦でも起きそうだな」
「神殿派の企ては、『女神計画』と呼ばれているらしい。それがどういう意味なのかは、分からないけどな」
「女神計画…」
俺は、思わず復唱してしまった。
そういえば、あいつの大層な二つ名は、なんと言った?
…『異世の女神』。
偶然だろうか。
「……そいつらの拠点は、首都なんだな?」
「そうだけど……ま、まさか、行くつもりなのかい?」
「あぁ。有益な情報だった。感謝する」
呆気にとられた顔の情報屋を後目に、俺は階段を早足で降りた。
イノリは、クリスタルバレーにいるかもしれない。
ただの早合点で、当てが外れて時間を無駄にするだけというリスクも大いにある。それでも、俺にはもう僅かな可能性に賭けることしかできなかった。
あいつのいない日々に、心が空洞のように寒々とする。
もう、ただ帰りを待っていることなどできない。
何か行動を起こさないと、気が狂ってしまいそうだった。
俺の中で、あいつの存在がそれほど大きなものだったとは、自分でも驚きだった。