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□Level.Last みらい
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ヒューゴは肯定も否定もせず、黙ってルックに強い眼差しを向けていた。ルックは仰々しく息を吐き出し、先を続ける。

「そして…真の紋章の記憶が…君達にも教えてくれる筈だ……世界の真実を…そして、僕が何をしようとしているのか…」



急に、イノリの目の前の光景が豹変した。
恐らく、真の紋章の力と深く繋がっているせいで、イノリにも「それ」が見えてしまったのだろう。
見慣れた街、カレリアの景色。しかし、今まで見てきた人々の生活感溢れる景色とは、吐き気を覚えるほどの違いがある。
古いモノクロ写真のように、色彩がない。
灰色の世界。その表現がぴったり当てはまる景色が、目の前に広がっていた。
一度ゲーム内で見ているとはいえ、衝撃的な光景にイノリは腰の力が抜けた。

「…大丈夫か?」

ゲドに肩を叩かれ、イノリははっとする。
どうやら、この世界にはイノリとゲドだけらしい。ヒューゴとクリスも、自分に縁のある地が灰色になっている光景を見せられているかもしれない。

「この世界を見せられること、覚悟はしてたけど…やっぱ精神的にくるね。これがはっきり見えていたルックは、どれだけ辛かったんだろ…」

「………やはり、これは…」

また、ふと景色が変わった。それは「無」を思わせる暗黒。立っている感覚がまるでない。心落ち着く夜の闇ではなく、夢の中にでもいるかのような不自然で終わりのない暗闇。
その中に呆然と立ち尽くすのはイノリとゲドだけでなく、ヒューゴとクリスも同じように言葉を失ってそこにいた。お互いの無事を確認し一瞬安堵したものの、無限に広がる闇は心を不安に染めあげる。
そのしんとした闇の中に、声が響いた。

「ここは…僕達の未来…その内の一つさ。静かだろう?音も色も形もやがて失い、この世界は完全なる静寂を手に入れる。完全なる世界だよ」

「どういうことだ!こんなのが、完全だなんて…!」

ヒューゴは衝撃的な光景に碧色の瞳を震わせ、強い語調で、いつのまにかそこに立っていたルックに問いかけた。

「法と混沌の戦う戦場…この百万世界。そして、それを裁く存在、バランス。法の象徴たる剣と混沌の象徴たる盾の戦いから始まった、この世界の宿命。永遠の闘争。そして、この風景こそがその到達点。法の力が世界を遍く支配した沈黙の世界…」

無の景色をぼうっと眺めながら宛転と語っていたルックは、ふと一人の人間に視線を向けた。

「それが世界の結末だと…長く真の紋章を宿していた君なら分かっていた筈だよ、ゲド」

自分よりも長く、紋章に生かされている者。ゲドに対して、近しいものがあると感じていたルックは、冷笑混じりに、しかし親和的に尋ねる。
ゲドもまた、冷笑混じりに彼の言葉を肯定した。

「真の紋章を宿してから、70年以上が経った。ここまではっきりした形ではないとしても、微かになら、俺にも見えていたよ」
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