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□Level.22 さけび
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ビュッデヒュッケ城の短い夜が明ける。
城の前庭から望める、一点の雲も留めない青空は、今日という戦いの日を讃えているようだった。
兵士達が戦いの最終準備に追われて忙しなく動き回っている中で、イノリは身体を反らせて伸びをする。

「うーん、いいお天気」

「お前はこんな時でも相変わらずだな」

ゲドは呆れ混じりにイノリを一瞥するが、そう言う彼も普段と変わりない様子である。

「褒め言葉として受け取っておくよ。でも相変わらずなのはゲドもじゃない。昨日みたいに普段から素直だったら、皆もあなたのこともっと理解してくれると思うけど」

「……昨日のことは、黙っておけ」

「えー、どうしようかな」

「よく考えれば、釘を刺すまでもなかったか。言うはずがないな。抱きついてきて『いつまでもそばにいたい』とかなんとか喚いていたことなど」

「うわあぁ!淡々と言わないでよ、恥ずかしい!口が裂けても誰にも言わないから!」

相変わらずと言ったが、やはりゲドは以前とは変わっていた。彼が人をからかうなんて、今までにないことである。
騒がしい(主にイノリが)やりとりを交わしていると、館の玄関が開き、ジョーカーとクイーンが出てきた。

「なんじゃ、大将。こんな所におったんか。エースが探していたぞ。報告書がどうとか…」

若干酒の臭いを漂わせながら、ジョーカーは言った。どうやらこの飲んべえ二人は、決戦前夜も酒を飲んで過ごしていたらしい。こちらも相変わらずである。

「まったく。今更何をやってるんだかねぇ」

クイーンは、戦の直前にもかかわらずバタバタと城内でゲドを探し回っていたエースの姿を思い出して、肩を竦めた。

「まぁ、あいつの仕事だからな」

このチームは決戦前でもほぼいつも通り。だが、周りの環境は以前より大きく変化している。
一同の目に入るのは、戦いに向けての意気込みを語り合う兵士達。それは、ついこの前まで憎み合い、争っていた者達だ。

「しかし、不思議な光景ね。ゼクセン騎士団とグラスランドが手を結んでいる。話が通じるのが不思議なくらいだと思っていたんだけどね」

クイーンの口調は皮肉っぽいものだったが、その表情はどこか満ち足りたもののように見えた。彼女に頷きながら、ジョーカーも感慨深そうにしている。

「そうじゃな。共通の敵がいる…そういうことが全てではないと思うがな」

「でしょうね…私の国が滅んだ時も、こんな風に…いや、それは無駄な努力か…結果は同じっだったろうからね」

「結果は同じであろうと、その意味は違っていたかもしれん。結果だけが全てなら、俺たちの命も、やはり…」

真の紋章の継承者であるゲドも、ルックと同様に灰色の未来を感じていたのだろう。
世界のあらゆるものの行き着くところは、例外なく「滅び」である。
しかし、結果に至る過程に、結果を求める想いに、意味がある。この戦いが根本的な解決にならないと知っていても、ゲドもそれが無駄なものだとは、思いたくないのだ。

「どういうこと?」

言い淀むゲドにクイーンが尋ねるが、

「いや……なんでもない」

彼は答えず、その場を離れた。悠然たる足取りで向かう先は、グラスランド・ゼクセン連合軍を束ねるリーダーの元。

「さーて、わしらも行くとするかの」

ジョーカーはさながらか簡単な雑用を処理するかのように、大様に構え、

「懐かしき戦場へ…だね」

クイーンも口元を緩め、

「よおっし!今度の戦いも頑張っちゃうよー!」

イノリは左手を天に突き上げる。太陽の光が反射して、ゲドからもらった指輪が輝いた。
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