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□Level.22 さけび
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「まず、どうせこいつも俺より先に死ぬんだろう、とか思っているあなたに朗報。私も実は不老らしいよ、まだ実感わかないけど」

「お前が…不老?」

「そう。人間とエルフの寿命が違うのと同じ。私の身体はこの世界では極端に成長が遅いんだってさ。年を取らないと言っても過言ではない程に。だから……私は、果てしなく永い時の流れをあなたと共に生きられる」

「………そうか」

抱きしめられている腕に、力が込められた。温もりと共に、ゲドの歓喜が伝わってくる。

「……でも、でもね。悪いお知らせ」

ひとつ、今まで目を逸らしてきたある可能性があった。物語は終盤に差し掛かり、それはいよいよ目を逸らすことができないほど、間近に迫ってきている。
イノリは束の間の沈黙の後、深く息を吸い込み、打ち明けた。

「私はルックの召喚魔法で、この世界にやってきた。だから、彼を倒したら、私も…この世界から消えるかもしれない」

一瞬、ゲドの身体がぴくりと動くのをイノリは感じた。

「…永き生か、泡沫の生か。極端な話だな」

動揺を悟らせまいと、普段と変わらぬ態度を装うゲドだが、イノリはそれが偽りだと見抜けるほど、彼を知りすぎてしまっていた。

「消えるのはあくまで可能性だよ。それに、別に消えるのは怖くない。どうせ元の世界で元の生活に戻るだけだろうし。でも、どっちかといえば消えたくない。皆とまだ一緒にいたいしね」

イノリの口振りは明るく、暢気なものであった。
ここで「消えたくない」とかさめざめと泣いて同情を引き、か弱い女になりきってゲドを困らせるような真似は、イノリには出来そうもない。

「まぁ…そんな自己都合な理由もあって、グラスランドの危機を救って、ルックも救うのが理想の展開かな。無論、最重要なのは前者だけどさ」

明るいイノリの態度が逆に痛々しく見えてしまったのだろう、ゲドはもはや己の感情を押し殺そうなどとはせず、切なげな視線で見つめるだけだった。
彼の永い生の中で幾度となく繰り返される別れ。もう慣れきっているそれを惜しませてしまうほどまで、自分は彼の中に踏み込んでしまっていたのか。
感情に素直なのは嬉しいことだが、苦しげなそれを見るのは、やはりイノリも心が痛んだ。
ならばどうして消える可能性を打ち明けたのか、ということになるが、当然理由もなく打ち明けたわけではない。

「なぜ、自分が消えるかもしれないということまで、俺に話した?」

「いきなりサヨナラすることになったら嫌だから。それに、あなたはこんなことで剣を鈍らせたりしない…皆が生きてるこの大地をもう一度守ること一番に考えるって、信じてるから」

「俺を買いかぶりすぎだ。……だが、おまえの願いを尊重するよう、努めよう。保証はできないがな」

ゲドが素直に頷かないのがイノリはちょっと嬉しかった。
やがて暫しの静寂が訪れ、二人の落ち着いた息遣いの音だけが互いの聴覚を支配する。
ここでようやくイノリは自分がどれだけ大胆な行動にでていたかを実感した。はっとして密着させている身体を離そうと、ゲドの背中にしがみついている腕を解く。

「あ、あの、ごめんなさ…」

ふいに絡み合う視線。ゲドのどこまでも深い漆黒の瞳は、不思議と安らかな気持ちを与えてくる。

「やっぱり……もう少しだけ、このままでいても、いい?」

「…勝手にしろ」

「…………了解っ」

甘い陶酔感に心を打ち震わせながら。
イノリはもう一度、彼の胸にしなだれかかった。
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