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□Level.22 さけび
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表情には嬉しさが丸出しになってしまっているだろうが、イノリは誤魔化すように大袈裟に笑った。

「あははは!ちょっと、そういう言い方すると今から死ににいくみたいじゃん!……まぁ、あなたは死なないって分かってるからいいけど」

「……それも、未来を読む力か?便利なものだな」

「そうかもしれないね。でも……ルックが戦う理由まで知ってしまっているのが、辛いよ」

「どういうことだ?」

初耳なことにやや目を見張ったゲドは、先程とは一変して憂いを帯びた顔になっているイノリに尋ねる。
なんと説明すればよいだろうかと、イノリはしばらく踏ん切りがつかずにいたが、ようやく口を開いた。

「………私はね、この戦いを一つの『物語』として知っているの。だから未来だけじゃなくて…戦いに身を投じる皆の境遇や過去、戦う理由も知ってる」

「その『皆』というのに、俺達だけでなくルックも含まれている…ということか」

イノリの言わんとすることを理解し、言葉を継ぐゲド。

「そう。私にとっては、敵も味方もひっくるめて皆『物語の登場人物』だったんだ。だけど私はその物語の世界に降り立ってしまった。ルックに召喚されて、ね」

流れるように語る自分の言葉を反芻して、イノリはまた彼には関係ないことを話してしまった、話してよかったのだろうか、と後悔の念に駆られた。

「…急にべらべら語っちゃったけど、信じないよね。こんな嘘みたいな話……わ、忘れていいから!」

「尋ねたのは俺だ。信じるさ。………お前も、俺が信じると思ったから話したのだろう?」

「…うん。戦いの日が近付いてきてるのに、情けないことに気持ちの整理がつかなくてさ。あなたには何も関係ない、どうでもいいことなのに…愚痴っちゃってごめんね」

傭兵は互いの事情に立ち入らないという暗黙のルールが存在しているというのに、これまでイノリは自分のことを開けっ広げにしすぎていたことを改めて自覚する。
イノリが俯きながら自省していると、腰掛けているベッドが軋む音を立てて軽く沈んだ。視線を上げて真横を見ると、そこにゲドが座っていた。

「お前のことがどうでもいいはずがない。一人で抱え込むな」

不器用だけれど優しい言葉。低く落ち着いた声のそれは、深くイノリの心に響く。

「……っ…ゲド……ありがとう…」

声を震わせるイノリの頭を、ゲドの大きくて無骨な手が、そっと撫でた。彼には不似合いな、慈しむような優しさで。その手から伝わってくる温かさは、イノリの嬉しさやら不安やら、あらゆる感情を溢れさせていく。
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