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□Level.22 さけび
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光の大剣は、持てば身体の一部であるかと思ってしまう程に軽い。お陰でどちらの手でも扱えるそれを、イノリはとりあえず主に右手で振るうことにして、指輪が丁度よくはまる指を左手から探す。
まず、人差し指に指輪を通す。第二関節でつっかえた。
続いて中指に。第一関節でつっかえた。
そして、薬指。
「あ、ぴったり」
左手をむすんで開いて感覚を確かめる。指輪はきつくもなく緩くもなく、丁度よく薬指に馴染んでいた。
しかし、左手の薬指に指輪をはめるというのは、イノリの文化圏では男女が愛を誓い合った証である。みだりにその指に指輪を着けるのは控えるべきだと思い直し、イノリは指輪を外そうとしたのだが、
「……抜けない」
内側に接着剤でも塗ってあったのではないかと、ありえない勘繰りをしてしまった。どういう訳か、いくら引っ張っても外せないのだ。
指輪の中央に鎮座する石は一瞬激しく光を発し、そこに宿っている魔力はイノリの体内へ吸収されて巡りだす。
己を包む恩恵の頼もしいこと。イノリは装備の効果の大きさに感動を覚えると共に、左手の薬指がどうのという些細なこだわりを諦めるしかなかった。
やむをえず左手の薬指にはめられた指輪と、それをくれた男を幾度か交互に見る。やがてイノリの目元は困惑を、口元は微笑みを形作って俯いた。
「……どうかしたのか?」
さすがのゲドでも突っ込みを入れてしまう程に奇妙だったらしい。イノリは顔が湯から上がった直後のように熱くなっていることに気付き、自分が紅潮した顔でへんてこな表情をしているということを、鏡を見ずとも理解した。
「い、いや…あの…私の力を強化するためって理由なのは分かってるんだけど、男の人から指輪もらうのって、何だか照れ臭くて」
ばつが悪そうにはにかみながら答えた後で、正直に答えすぎたのではないか、とまた勝手に赤面していた。
「………イノリ」
「な、なにっ?」
上擦るイノリの声。恥ずかしいことを口走ってしまった後に、何を言われるのだろうか。逃げ出したいと思いつつ、ゲドの強い視線に捕われて動けない。
「お前には感謝している」
いつもの無表情にいつもの平坦な声色。しかし珍しい言葉だった。一呼吸置いて、イノリは努めて冷静に答える。
「…それは嬉しい限りだね。でもどうしたの、いきなりそんなこと言って?」
「ふと、お前と出会ってからのことを思い出してな。今までよくやってくれた」
胸がじぃんとした。他人に無関心そうに見える上司にこんなことを言わしめるくらいだから、今まで自分が本当に彼の役に立つ部下でいられたのだと感激する。