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□Level.21 そうそう
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ならばすぐ近くにいるササライを頼ればいいと考え踵を返そうとしたイノリだが、彼も紋章を奪われていることを思い出し、その足で小さな瓦礫を蹴っ飛ばした。
となると、一度本拠地に戻り、エッジを拝み倒して星辰剣を借りるのがいいだろう。イノリは早速瞬きの紋章を使おうとしたが、すぐに意識の集中を解いた。

…何?誰かいる?

背後に感じる不思議な気配。音もなく現れたそれには殺気は感じられず、むしろ優しげなものに思える。イノリは意を決して振り返り、その正体に肝を潰した。



長く伸ばされた艶やかな黒髪に、雪のように白い顔の女性だった。彼女は盲目であるらしく、目はずっと閉じられたままだ。代わりに額の真ん中に飾られた石が、瞳のように輝きを宿していた。
繊細な布で作られた白いローブの清楚さも相まって、全てを見透かしているような神秘的な雰囲気をまとう彼女。イノリは何度も目を擦りながら、恐る恐るその名を口にした。

「………レ、レックナート様…?」

真の紋章の一つ、裏の門の紋章の継承者であり、バランスの執行者としてシリーズの主人公達を導いてきた魔術師の女性。
真の紋章の器として人為的に作り出され、クリスタルバレーで幽閉されていたルックを不憫に思い、そこから連れ出したのも彼女である。

「私の名を知っているとは……それも、異世の者としての力なのですね…」

レックナートの抑揚の少ない声は、それでいて不思議と優しげな印象を抱かせた。

「えぇ、まあ。レックナート様がどんなお方なのかは、よく知っております。まさかお会いできるとは思ってませんでしたが…。それで、一体どうしてここに?」

「あなたをこの世界に引きずり込んだルックは…私の弟子。あなたに迷惑をかけてしまったことに、私も責任を感じています。あなたが元の世界に戻りたいというなら、いつでも帰して差し上げましょう」

レックナートはあまりにも淡々と持ち掛けてきた。彼女が目の前に現れたということさえ、幻なのではないかと疑ってしまっているイノリは、落ち着きなく聞き返す。

「え?えっ!?私、元の世界に帰れるんですか!?そんなこと出来るんですか!?」

「はい。我が身に宿る門の紋章の力は、三千世界との門を開く力…。あなたを元の世界に送るのは、容易いことなのです」

都合のいい幻聴ではなく、都合のいい事実のようだ。
元の世界へ帰れる。逃げることができる。全てを投げ出して。
その臆病な選択は、今のイノリにはこれっぽっちも魅力的とは思えない。物語が終盤に入った所でリタイアするなど、不完全燃焼の極み。論外である。

「………………私、まだ帰りたくありません!仲間ともう少し一緒にいたいし、やるべきことがまだまだ残ってますし」
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