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□Level.21 そうそう
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敷地全体を高い柵で囲い、前庭と建物との間は緩やかな階段で結ばれ、通路の両脇には何本かの石柱が並んで立っている。
建物の屋上には鐘突き堂があり、小さな空間の中に鐘がすっぽりと納められていた。
建築様式は確かに教会のそれである。だがしかし。
柵は歪みがひどく倒れている部分もあり、前庭は雑草が茂って荒れ放題、石柱は崩れていたりひび割れていたりするものもあって対称を保っていない。
錆び付いた鐘が美しい音色を響かせる訳もなく、屋根が剥がれて空いた大穴に吹き込む風が控えめに音を鳴らすだけだった。
「ボロすぎる……でも多分、ここがクロッツェオ教会なんだろうな」
足を乗せると僅かに沈む石畳を踏み、そこかしこに転がる瓦礫を避けて、イノリは廃墟と化した礼拝堂の入口をくぐる。外れている扉は床に倒れていた。
逸る気持ちで中に入り、何故か弾痕だらけの屋内をざっと見ると、イノリの探し物はすぐに見つかった。
「あった…異世の鍵…!」
懐かしき石版は前に見た時と全く同じ姿で、礼拝堂の隅っこに追いやられていた。
衛兵から聞いた話によると、ササライは「この石版から力を引き出せる人間は滅多にいないから、管理にそんなに気を使う必要はない」と言って、異世の鍵をここに運ばせたらしい。
誰も近寄らない朽ち果てた教会に、ほぼ誰も扱えない兵器を隠す。合理的なようだが「力を引き出せる人間」のイノリから見ればむしろザルである。
異世の鍵の前に駆け寄ったイノリは、心を落ち着けてそれに手を触れた。しかし何も起こらない。
意識を集中させた。しかし何も起こらない。
両手で触れてみた。やはり何も起こらない。
「そんな…どうして…?」
石版に疑問を投げ掛けても答えなど返ってくるはずもなく、自力で考えるしかなかった。
イノリはまず、初めて異世の鍵に触れた時と、今の状況と、ついであの童話とを比較してみる。
………。
焦りが邪魔して思考がまとまらない。皆にも一緒にクリスタルバレーに来てもらっていれば、知恵を借りることができたのに、と後悔を募らせるイノリ。
「皆、今何してるかな?一人で来るんじゃなかった…」
……一人…?
閃いた。何気ない呟きから、あることに気が付いた。
「…!…忘れてた……私一人じゃ、無理なんだ…」
童話の少女の側にはヒクサクがいて、イノリの側にはゲドがいた。ようやくイノリの脳の働きが冴え始め、転がり出てくる答え。
異世の力は、真の紋章の力を介さないと完全に解放されない。
恐らく、異世の鍵に封印された力を解き放つにしても、真の紋章の力を介する必要があるのだろう。