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□Level.21 そうそう
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クリスタルバレーにテレポートするだけならば、イノリ単身でも不可能ではない。
しかしテレポート魔法というのは、使用者自身が知っている場所にしか飛ぶことができないという制限がある。
イノリがクリスタルバレーで知っている場所といえば、ゲーム内で少し登場した円の宮殿の中だけ。部外者がそんな場所に突然現れたならば、混乱が起きてしまう可能性は高い。むしろ絶対に混乱が起きると言っても過言ではない。
それを防ぐためには、ササライと行動を共にして彼の権力を笠に着させてもらうのがベストだと言えるだろう。
イノリがゲドの顔をちらりと窺うと、無愛想度は気持ち低めに見える。どうやら好きにしろということらしい。

「分かりました。私も一緒にクリスタルバレーへ行きます」

「助かるよ。では、早速だけどお願いできるかな?」

「はい。……じゃあ皆、ちょっと行ってくるね」

身体の末梢から魔力を右手にかき集めるように精神を集中させ、脳裏に描く景色は聖なる宮殿。
魔力が落ちているせいであろうか、魔法が発動できる状態になるまでに要する時間が、以前より延びていた。

「私達は、あんたが良い知らせを持って帰ってくると信じて待ってるさ」

若干呂律の怪しいクイーンの歓送の言葉を受けたイノリは舞うように印を結び、

「多分、すぐ戻ってくるから。それっ!」

輝く右手を掲げると、ササライと共に眩い光を伴って瞬く間に姿を消した。





浮遊感は一瞬のこと、ブーツの踵が床とぶつかる乾いた音が反響した。周りを見渡すと、景色が変わっている。
硝子の多用された内装は清純かつ厳かで、神聖の権化と例えるのが相応しかった。今イノリが立っているのはクリスタルバレー、円の宮殿で間違いないだろう。

「やったー、テレポート大成功!」

イノリはササライが一緒というのを忘れて無邪気にはしゃいでしまい、はっとして口を噤むが、その彼の姿が見えない。

…まさか、失敗した?

これもまた魔力が落ちているせいかと冷静に分析しているうちに、せわしなく駆ける足音が複数、近付いてくる。

「何者だ!貴様、どうやってここに侵入した!?」

クリスタルバレー到着から十秒も経たずに衛兵に囲まれた。大袈裟なことに、一人の侵入者に対して十数人が円陣を組んで武器を突きつけている。

「あの、私は魔法でササライ様をクリスタルバレーまでお送りするために来たんですが」

全力で警戒される展開が多すぎて慣れきったイノリの対応は、余裕のある態度だった。

「ならば、ササライ様はどこにいるというのだ?嘘をつくな!」

「お約束だなぁ。まぁ落ち着いてその物騒なモノしまってくだ…はうっ!?」

イノリのだらしない起立姿勢が突然、ものすごい勢いで崩れ、綺麗に磨かれた床に危うく顔をぶつけそうになった。急いで起きようとすると背中が重い。

「へえ、これは凄いな。本当にこんなに早くクリスタルバレーに着いてしまうとは」

背中から聞こえてきたのは、呑気に感心するササライの声だった。
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