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□Level.ex あるひ(PM)
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演目、ロミオとジュリエット。物語の舞台は14世紀。イタリアの都市、ヴェローナ。

二大名門として知られる、モンタギュー家とキャピュレット家。
両家は仇敵視しあう仲であり、昔から血で血を洗う争いが絶えなかった。
そんな中、モンタギュー家の一人息子ロミオと、キャピュレット家の一人娘ジュリエットが出逢い、恋に落ちた。
二人は許されぬ恋に身を委ね、やがて、悲しい最期を迎えることとなる。

物語のあらすじは、このような感じだ。
何故この世界にその物語があるのか、という突っ込みは、してはいけない。




長くて低いブザーの音と共に、舞台の幕がゆっくりと開かれる。

ベニヤ板で作られた屋敷のバルコニー。
そこに立つのは、恋に苦しむジュリエット…を演じるイノリだ。
愛しい人への想いは膨れ上がるばかりで抑えきれず、ジュリエットの口から溢れる…というのを、顔、声、身振りで表現する。

「ロミオ、ロミオ。どうしてあなたはロミオなの?その家名を捨ててくれたら、私も家名を捨てるのに…!」

バルコニーから身を乗り出し、切ない顔をして、イノリはすらすらと台詞を読んだ。
感情のこめられた演技に、観客は釘付け。出だしは好調であった。

…戦で荒んでいく人々の心を紛らすため、役者になるのもいいかもしれない。

ふとイノリがそんなことを考えた時。
誰だか気になって仕方がなかったロミオ役が、ついにステージの右奥から登場する。

ロミオ役は、凛々しい表情のよく似合う、整った目鼻立ちの青年だった。
彼のような美青年がロミオ役ならば、イノリの演技にも、より身が入るというもの。
彼に情熱的な台詞を言われたら、本当に恋に落ちてしまうのではないか。

「その言葉、このフレッド・マクシミリアンが確かに頂戴した」

イノリの心配は、彼の第一声で砕けた。

「…へ?」

「君が俺を恋人と呼んでくれるなら、明日から俺はロミオではない!」

「ちょっと!本名を名乗ってる時点で、既にロミオじゃないじゃん!」

フレッドの自由すぎるロミオ役に、思わず突っ込みを入れてしまうイノリ。
すると、客席からどっと笑いが起こった。
悲恋の物語は、早くもコントになりかけている。舞台を見守るナディールの仮面が、なぜか恐ろしい般若の面のように見えた。
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