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□Level.13 つどい
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「ゲド、この子は……?」
サナがイノリにすっと近付く。
「こいつは……」
「ごめんなさい。私が部外者なのは分かっています。これからここで起きる事…それを見届けたいという身勝手なわがままで、彼についてきてしまいました」
イノリはゲドが何かを言おうとするのを遮って、サナに詫びを入れた。
ここにいるヒューゴ、クリス、ゲドは、いわゆる「選ばれた者」だ。
お呼びでない者であるイノリは、自分がここに来るのは軽率だったと後悔していた。
「そう……あなたには、何が起こるか見えているのね…。『口寄せの子』のようには見えないけれど…あなたは一体…?」
口寄せの子という単語にクリスが反応し、イノリを注視する。
「私はイノリ。口寄せの子だなんてとんでもない、少し勘が良いだけの傭兵ですよ」
「イノリですね。あなたも、こちらへどうぞ……。真実を、お見せします」
サナに導かれるまま、皆部屋の奥へ進む。
そこにあったのは、長年使われていないようなのだが質素な生活感を残している、不思議な空間。
「こ、これって……」
部屋の中を隅から隅まで凝視し、言葉を失うヒューゴ。
ベッドがあり、ついたてがあり、テーブルがあり、クローゼットもある。
洞窟の奥とは思えないほどに、部屋には暮らしに必要な家具が揃えられていた。
そんな部屋で、彼が絶句する理由は。
テーブルの上に置かれた棍。
椅子の背もたれに掛けられた服。
一目見ただけで分かる。
それらは炎の英雄の所持していたものだ。
英雄がいた証拠はあった。
だが、そこに英雄の姿はない。
「……………………」
見覚えのある品を前に沈黙するゲド。
その沈黙は、普段のように何かを受け流すものではなく、ヒューゴと同じで単純に言葉が出なかったのだろう。
皆、炎の英雄を求めてここまでやって来て、当然、彼がここにいると思っていた。
だが、隠居する環境の整えられた部屋で、ひっそり静かに暮らしていると信じていた英雄は、どこにもいない。
信じられない、という顔をするヒューゴに、炎の英雄の伴侶であるサナは真実というとどめを刺す。
「……炎の英雄…ソル。私の愛した人は…既にこの世界にはおりません…」
戦での傷が付いた棍も、袖口の綻びた服も、「遺品」と呼ぶのが正しかった。
…そういえば、炎の英雄の名前を聞いたのは、今日が初めてのような気がする。
『ソル』は、確かにイノリがゲームのオープニングで頭を悩ませながら付けた名前だ。
自分の付けた名前が反映されていて、うっすらむず痒さを覚えるイノリ。
そんなどうでもいいことを考える余裕があるのは、炎の英雄が既に亡くなっていると知っていたからだろう。
「…しかし、真なる27の紋章を宿す者には、永遠の生が与えられ…老いが訪れないと……」
目の前の現実を冷静に受け入れながらも、クリスは矛盾に気付き、それを口にした。
彼女が疑問を抱くのも当然だった。
炎の英雄は、その右手に真の火の紋章を宿していた、と伝えられているのだから。
「えぇ……だけど………あの人は…永遠の生よりも、私と共に老いることを選んだのです…」
英雄の遺品を懐かしそうに眺め、今は亡き恋人を偲ぶサナの目は少女のようだった。
EX項「恋人」→23ページ