あそび

□恋にするには、
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恋にするには、



 企画案の内容に一旦、切りがついた。星史郎はふ、と短い息を吐くとデータを保存して、パソコンの電源を切った。

 ちらりと机上の時計に目をやると、約束の時間に迫っているのに驚いた。かなり企画作成に没頭していたらしい。手早く、ちらかった書類をまとめて席を立った。


 オフィスのホワイトボードに帰社と書き込んでいると、後ろから騒がしい呼び声と共に、どんっと背中を叩かれた。

「桜塚ぁ〜、また定時に帰るんかいな!たまには飲みに付き合わんかい!」

「定時に帰るのは僕の勝手でしょう。ちなみに今日は社長と面会です」

「ほんまかっ?!なんぼお前が仕事できるかて、社長に会うほどエライことしたか?」


 同僚の有栖川は表情をくるくる変えながら、しきにり星史郎の背中を叩く。毎度のことながらこの底抜けの明るさには尊敬するが、いささか欝陶しい奴だ。星史郎はいつもの営業スマイルをしまい込み、有栖川へ冷たい視線を送った。

「ええ。CLAMPグループへのイベント企画が採用されたんですよ。ですから、社長へ直接報告を許されました」

「ク、CLAMPグループって……あの大手財閥メイカーやないか!お前とゆーやつはいつのまにそんなデカイ仕事をやりおって!」

「貴方は営業なんですから、知らなくて当たり前でしょう」


 入社三年目にして、異例の大手グループへの企画採用。星史郎の功績に企画部は色めき立ったが、当の本人はいたって冷静だった。自分のスキルアップのために、此処に入社したのだ。これくらいの功績を上げるのは予定内。星史郎は五年も勤めたら早々に独立する気でいた。

 スタートは同じだったはずや、とぶつくさ言い始めた有栖川を横目に。余計な時間を使ってしまったと、星史郎は足早にエレベーターへ向かった。




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