あそび

□G線上の歪み
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G線上の歪み



 学年末試験が先週終わり、すっかり気を抜いていた神威には、今週期限の課題の存在など頭にはなく。今日、幼なじみにそれを聞いて顔を青くした。

ちなみに今日は木曜日、つまり提出期限は明日の朝まで。しかも課題内容は神威が1番苦手としている数学。

テストが終了すると勉強内容を綺麗さっぱり忘れてしまう神威の頭に、課題の解き方など留まっているはずもなく。今回もまた幼なじみに泣き付くはめになった。


 放課後の生徒会室には封真と神威のみで、ほかの役員は早々に帰ってしまったらしい。贅沢にも生徒会室を独占して課題を広げられるのも、目の前にいる幼なじみのおかげ。


 ちらりと机から目線をあげると、生徒会の書類に目を通しながら神威の課題を助けてくれる封真の姿。夕日に反射して綺麗な黒髪が輝いて見える。

長身にこの整った顔だ、生徒に人気なのもわかる気がする。クラス1美人の村瀬さんも封真を好きって聞いた。封真も村瀬さんに告白されたら嬉しいのかな。勝手な想像だって思っても、そう考えるとなんだか不安になる自分がいた。


「……なに?」

思わず封真を睨んでしまっていたのか。書面に向かっていたはずの封真がいつの間にか顔を上げていた。

「俺の顔になんかついてた?」

ふっと顔を和らげて神威に笑いかける封真になんだか落ち着かない。普段はみんなの前で笑顔なんか見せないくせに。

「なっ、んでもない」

見つめていたことをごまかすために、机に広げたまま解きかけの課題に逃げた。


そんな神威の反応にむっとしたのか、封真は突然神威から課題のテキストを取り上げた。

「なんで見てたか、言え」

穏やかな口調が一転してドスの効いた低い声になった。なんでそんなに怒ってるんだ!と叫びそうになる神威だったが。射るような視線と不機嫌な口ぶりに反抗する気が失せた。


「……封真が生徒会長だから」「あぁ?」
「しかも、俺と違って顔も頭も良いから……みんなに人気だし、」


なんだか子供が拗ねているようで、ひどく恥ずかしい。最後の方は声が小さすぎて聞き取れなかったと思う。

気まずくて俯いていると。ふっと頭の上に影が落ちた。なにかと思い視線を上げれば、いつの間にか封真が机を乗り上げて自分に迫っていた。

突然のこと驚いて反応できずにいる神威に、封真はにやり、意地悪い笑みを浮かべた。


 かちゃり、音を立てて合わさった柔らかな感触に。ようやくキスをされたことに気付いた。眼鏡に阻まれて軽く撫でるキスを何度も繰り返す。かちゃかちゃと焦れったいほどに邪魔をする眼鏡にすこし苛立った。

まるで、ねだってるみたいに。

「んっ、」

自分の考えに恥ずかしさを覚えるとともに、ひどく優しいキスに泣きそうになる。


「やっぱ眼鏡、邪魔だな」

くっくっと笑う声で唇が離れた。かわりに、今度は封真の腕の中。いつもだったら嫌がる神威も、今はおとなしく収まることにした。あのキスで毒気を抜かれたみたいだな、と封真の胸に頭を預けた。


「俺が人気だから、妬いたのか?」
「違っ!」
「違わない。嫉妬だろ、それ」
「………うるさい」
「神威が嫉妬してくれるなんて、会長を引き受けた甲斐があったな」
「ばーか」


からかうような封真の物言いに腹を立てながらも、自然と頬が緩んだ。
普段見る、講堂で立つ姿とか、大勢の前で公言する封真は、どこら別人みたいで。神威をどうしようもなく不安にさせた。けれど今、自分を抱きしめていてくれるのは間違いなく封真で。
甘えるように、ぐりぐりと頭を擦り寄せると。優しく頭を撫でられた。


「誘ってるのか?」

頭に置かれていたはずの封真の手が、ゆっくりと神威の頬を撫で下ろす。そのまま、顎をくいっと持ち上げられた。

 絡み合う視線はどちらも熱に侵されているようで。神威は無言のまま封真の顔へ手を寄せ、そっと眼鏡を外してやった。それをどう解釈したのか、封真がふっと笑みを零す。

顎を掴まれた手と腰に巻かれた腕の力が同時に強められ、ぐっと引き寄せられた。待ち焦がれたような衝動に、神威は素直に従っ――――



――――ガラガラッ!!



「あっ!」
「おやおや、」


突然の声と開けられた扉の向こうには、

「か、神威!」
「お楽しみ中、お邪魔してしまいましたか。これは、すみません」

顔を真っ赤にして双子の兄の名を呼ぶ昴流と、にこやかに謝罪する生徒会顧問の数学教師、星史郎の姿があった。


「す、昴流!ちがっ!これは、」

ソファの上で封真に抱きしめられ、しかもキスの手前。予期せぬ自体に焦った神威は、封真を思い切り突き飛ばし、立ち上がったかと思うと。真っ赤になった顔を俯かせながら、扉の前に立っていた二人を押し退けた。そしてそのまま勢いよく生徒会室から飛び出して行った。

「神威っ!先生、すみません!これお願いしますっ」

昴流は持っていた荷物を星史郎に渡すと、すぐに神威の後を追っ掛けに行ってしまった。


バタバタと廊下を賑わす音を背に、星史郎はのんびりと生徒会室へ入った。

「いやぁ、まさかココでしようとするなんて大胆ですね」
「知っていたくせに」
「まさか」

神威を逃した原因に溜息を漏らしながら、封真はソファへ座りなおす。

「どーせ、昴流さんと一緒にいるために荷物持たせたんでしょう」
「心外ですね。僕はただ少し手伝って貰っていただけですよ。昴流くんの生徒会入りは確実ですし、先に仕事を少し知っておくのも良いかと思いましてね」

もっともらしい理由だが、封真に信じる気はさらさらなく。机の上に置き去りにされていた神威の課題を片付け始めた。

これを届けるために神威に会えるな、と封真は少し気持ちを落ち着けて神威の機嫌が直ることを祈った。




end.



20080308







































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