日曜の午後。意外に空いていた街道をMINI Cooperで走り抜ける。小さな車体に大の大人二人で座るのは狭いことこの上ないが。ハンドルを握る星史郎の楽しそうな横顔を見れば。文句をいう気なんてなくなってしまう。昴流はまるで子供のような星史郎に頬を緩ませながら、ステレオから流れるラジオの曲に耳を傾けた。 星史郎の「昴流くん、デートしましょう」そんな唐突な申し出によって、読書をする予定であった昴流の休日は。星史郎とのデートに変更となった。単に、お気に入りのminiを走らせたい口実なのはまるわかりだ。 車はどこへ向かうのか。ただただ走る。星史郎に目的地を尋ねても「さぁ?」と返ってくるだけだろう。 そんな車内に会話らしい会話はほとんどなく。ラジオだけが響く。けれど不思議と嫌には感じない。となりが星史郎だからだ、と昴流はわかっているが。本人には決して言うつもりはない。言ったら調子に乗るのが目に見えているからだ。 会話が少ないのはいつものことだが、やはり車ばかりかまう星史郎の姿はなんとなくおもしろくなかった。 「あ、僕にもひとつ下さい」 ようやく発された言葉は。昴流が食べようとしていた飴玉に対してだった。 煙草ばかり吸っているから口直しが欲しくなったのか。昴流は手に持っていた飴玉を口に入れ、ハンドルを握り前を向いている星史郎を見た。 「何色がいいですか?」 「味ではないんですか?」 「味はみんな一緒で、色だけが違うんですよ。この飴玉」 ガソリンスタンドで貰ってきたものです、と付け加えたら星史郎が「昴流くんらしいですね」と笑った。 「じゃあ、青色を下さい」 「青色はありません」 「そうですか。じゃあ、赤色を」 「赤色もないです」 昴流との問答がおかしいと思ったのか、星史郎がちらりと横を向いた。そして昴流の手の中にあるものに気付くと、呆れたように口を開いた。 「青も赤も。全色あるじゃないですか」 星史郎からの疑問の視線を避けるように、昴流は急いで窓を向いた。 「昴流くん、どうしたんですか?」 昴流の行動を心配するような声色に、ますます恥ずかしくなり。顔が熱い。 こういうときの昴流はなかなか頑固になる。しかし、何も答えない昴流に星史郎は何度も優しく声をかけるものだから、渋々昴流の口も開いた。 「星史郎さんが……車ばかりかまうから、いけないんです」 些細なことで子供っぽい態度をとった自分が恥ずかしくてたまらないのに。昴流の声は拗ねるようなものになってしまい。つくづく素直じゃない自分が恨めしかった。 星史郎の反応がなく、不安になりながら顔を上げようとすると。 キキッと車が音をたてて、急停止した。突然のことに呆然とする昴流と対照に、星史郎はすばやくシートベルトを外して昴流に覆いかぶさると。器用に昴流のシートベルトも外し、シートまで倒した。 「昴流くん、そんなかわいらしいこと言うのは反則です」 星史郎の意地悪い笑顔に、さっきまで赤かった昴流の顔は、さぁっと青ざめた。 「昴流くんからのお願いですから、たっぷりかまって差し上げますよ」 ひっ、と昴流が叫んだ声は熱いキスとともに掻き消され。 車内には不釣り合いなほど、明るい曲が流れていた。 end. Thanks!20,000over! 20080304 Miniは想像です。車にこだわる星史郎が書きたかった……! . |