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□これが最後の最後になるといい
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これが最後の最後になるといい






久々に出会った二人。以前とはまるで違う空気。久しく見る昴流は、背が高くなり、顔付きも出会った頃のあどけなさが消えて大人っぽい。素直に美しい、と思う。しかし目の前にいる自分を見つめる瞳だけは変わっていなくて。思わず笑ってしまう。

そんな自分に昴流は怪訝そうな顔を向けた。


星史郎は条件反射のようにコートのポケットの煙草に手を延ばすと、横から火が差し出された。

「ライター……。煙草、吸ってるんですね」

少し驚いた顔を見せるも、昴流からの反応はなく。黙って煙草に火を点けた。


久々の会話は星史郎が一方的に話しているだけだった。昴流のわずかばかりの反応から、昴流が夢を諦めて、煙草で能力を上げていることがわかると。嬉しくて。

彼の中の自分の存在が。彼を壊していく、優越感。けれど、まだ足りない。そして、ゆっくりと煙りを吐き出しながら。

「僕のことを理解、してみたくないですか?」

そっと笑いながら告げる言葉に目の前の体は驚くほどに揺れた。
じっと期待するような瞳。あれほどの悲しみを味わったはずなのに。人間という感情はなんて愚かなのだろう。


「そのためには、僕に近づく必要があります」


わざと遠回しな言い方をすれば、案の定昴流の顔に疑問の文字が浮かぶ。その反応にニコリと笑い、そして丁寧に諭す。



――――人を殺してみて下さい、と。


何度も何度も繰り返しそうすれば、人間がただの“モノ”に見えてきますよ。脆くて弱い物体。それが僕の見ている景色です。だから、そうして僕と同じ景色を見れば―――――

僕の中での、貴方の価値が変わるかも知れませんよ?



くすくすと楽しそうに笑う星史郎とは対照的に昴流の瞳は落胆していた。その表情に至極満足した。

「冗談ですよ。貴方に人を殺すことなんて無理です。だから僕を理解することもできない。」

また唇に煙草を寄せて肺に煙を満たせば、ちょうど吸い終えた。それを地面に落として踏み付ける。

そうして最後にニコリと笑みを添えて、昴流に別れを告げた。

くるりと背を向けて歩き出せば、ようやく昴流が口を開いた。




「僕が人を殺すのは、


―――貴方が最初で最後です」




昴流の言葉をどう受け取ったのかわからぬまま。星史郎は歩みを止めずに、桜の花とともに消えた。





貴方が私を理解できるはずがない。どんなに自分を憎んでも、貴方はただ、ただ美しいまま。だからこそ、僕は壊したい。君をこの手で。




end.


















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