お題

信じない
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『巧(タクミ)君、男好きだろ?』


来て1ヶ月位たつ頃、残って店の片付けをしてた俺にそう言った。
当時自分の性癖を自覚したばかりだった俺は、ぎょっとした顔で純也を見た。
まるでいたずらを見つけたような、得意気な瞳が覗き込んできた。

あの頃から、この目の引力は変わらなかった。

『俺も好きだよ。ついでにセックスも好きにさせてやるよ。…俺どう?』

ダイレクトで、普通なら悲鳴もんのセクハラ発言だ。
なのに俺はその誘いに乗り、言葉どうり純也とのセックスにはまってしまった。
確かにうまいのだ。
どこで身につけたのかわからない技法。
長い指先と低い声を武器にされ、いつも俺は余裕をなくす。
普段は周りにクールとか言われてる俺は、こいつとのセックスの時はあられもない姿になる。
さんざん焦らされて、泣いて求めて。
奥底にあった俺のMっ気は純也によって開花し、満たされる事を覚えてしまった。
だから確かにセックスは最高…けれどそれ以外は最低だった。
我が儘放題、やりたい放題な性格。
仕事場ではとにかくできる店長ぶりで、その外見故にモテる。
それを自覚してて、寄ってくる奴は男女問わず遠慮なく手を出す。
付き合ってから何度修羅場に巻き込まれたか…もう数えたくもない。
泣きながら俺に掴み掛かって来る女の子や、純也の家まで押し掛けて来たオニイサン。
もうキリがない。
そんな彼、彼女に純也は決まって飄々と言ってのける。

『こいつが本命。君はただの浮気』

いつか誰かに刺されそうだ。



「…そういえば、昨日、また上の人店に来てたじゃん」

俺はベットによりかかって、思い出した事を聞いた。
昨日はお互い店に出る日だった。
チェーン店でもある為、金曜日は地獄的混みぐあいだった。
必ず出勤させられてる俺は、あくせく動きながらも純也と上の役職らしき奴が話すのを見かけていた。
たいてい彼らは、店のメニュー変更やバイト人数調節を提案していく。
だからまた今回も、何らかの変更があるのかもしれないと思った。

「あぁ…」

純也がサイドデスクから灰皿を引き寄せつつ、頷いた。

「今度は何?またバイト増やすの?」

調整で増やすバイトの子にも、こいつは手をだした事がある。

「あ〜…どうだかな」

仕事の話になると、決まってこの返事だ。



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