お題

心温
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同性にしては綺麗という表現が似合う外見と、物腰。
整った容姿は一見近寄りがたいが、話すと驚くほど愛想がいい。

大学内で目立つ秋元の存在は友人を通して知ってはいたが、直接関わると噂通りの印象を抱いた。
自分は同性愛者だと臆面もなく口にして、時にはそれを材料に周囲を笑わせもした。
その人当たりの良さは時折軽薄にも見せたから、心ない、確信のない噂を陰でする奴等もいた。
気に入った男とはすぐ寝るらしい、飽きてすぐ相手を捨てるらしい…そんな声にも秋元は堪える様子もなく、堂々としていた。
だけど実際の秋元は軽薄でも、見境ない遊び人にも思えなかった。
参加した飲みでは友人達に手を出すそぶりすらなく、場に合わせて周りを楽しませるのがうまい。
誰にも知られずに気遣いのできる男だった。
陰口は平気で言わせても、自分は傷つける言葉を持たない。
秋元はただ、優しいのだ。
自覚さえない男に、好感を持っていた。
だからあの時、戸惑う胸の内を打ち明けた。
永瀬を好きかもしれない、ゲイかもしれない…と。
否定されず、話を聞いてくれたらそれで満足だったんだと思う。
そんな考え事態、俺らしくない甘えだった。
それだけじゃない。
単純にあの時俺は、秋元に近付いてみたかった。
本当にただそれだけだった。


秘密を打ち明けた事で始まった、秋元との秘密の関係。
持ちかけられた秋元の提案に、最初は驚いた。

『自由に俺を使っていいんだよ?捌け口だと思って。俺は快感を得られればいいんだから』

理解し難い誘いに、内心は失望もしていた。
噂通り、秋元は“そういう”部分では奔放な男なのだ、と。
それまで遊びで誰かと寝る考えを持たなかった俺の背中を押したのは、自身の勝手な失望と対抗心だった。
同じ感覚で誘いに乗るのも悪くない。
永瀬を守りたいと思っても、性的な方面で想像した事はなかったから、男に反応できるか確認できる。
俺は男同士の恋の先を学んで、秋元は望む快感を得る。
お互い様だ…
そう言い訳して結局は、彼を浅はかな実験にしようとしたのは間違いない。


秋元との1度目のキスで、俺は男と触れ合う事ができる人間なのだと自覚した。
そこで踏みとどまっていればよかったのかもしれない。
だけど俺は、練習という名目を利用して秋元と身体を重ねた。
いくら綺麗で白い肌でも、女の子とは全然違う。
柔らかさも、特有の高い声もない。
それでも、躊躇いはなかった。




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