お題

心温
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『俺、諦め悪いんです。まだ好きなんて』

時折涙を見せる永瀬はけなげで、一途で。
笑顔にしてあげたい、と思った。
同性相手にそう思うなんて、きっと恋なのだと思った。


「あ、秋元さんだ」

永瀬の声に視線をあげると、男数人が食堂に入ってきた。
その中でも秋元文哉(アキモトフミヤ)は、ぱっと目をひく華やかな容姿をしている。
顔の広い彼は、さっそく近くに座っていた友人達に声をかけられていた。
幾人かと話を交わすと、秋元は視線を巡らせた。
友人達に注文を頼み、空いてる席を確保する役割についたようだ。
あいにくとこの時間は混雑していて、彼ら人数分の席は限られている。
俺達の列の、数人挟んだ向こうに空いた場所を見つけた時、秋元も気付いたようだった。
ゆっくりこちらに歩を進め、だいぶ近づいてから俺と永瀬に気付いて一瞬足を止めた。
目を合わせた時、わずかに眉を寄せたが、すぐに口元をあげ声をかけてきた。

「こんちは」

永瀬が、少し緊張した面持ちで頭を下げる。

「こ、こんにちは」
「…あ、野菜炒めうまそう」

至極自然に言って、永瀬の手元を見つめた。

「本当は新メニューのカレーにしたんですけど…辛くて」

秋元は、ちらりと俺の皿を眺めた。
それから俺と目を合わせた。
色素の薄い瞳は俺を映すと1度だけ、ゆっくりと瞬きをした。

「交換してやったんだ。へえ…そんな辛いの?」

穏やかな声音で秋元は俺に言った。
ただの、友達の1人でしかないような顔で。
努めて俺も平常を振る舞い、それに答えた。

「いや、大した事ない。でも子供舌の永瀬には厳しいみたいだ」
「目黒さん!」

永瀬が頬を染めて、抗議の目をする。
そんな姿を眩しそうに秋元は瞳を細め、首を傾げて笑った。
俺は、ぼんやりとその横顔を見つめた。

「秋元、食うぞ〜!」
「…あ、じゃあ行くね」

友人達に呼ばれ、秋元はそう小さく言って背を向けた。
線の細いすらりとした背中が、去っていく。

「秋元さんて、本当綺麗だなぁ」

永瀬がため息混じりに呟いた。
答えずに俺は、無理矢理その存在から視線を逸らした。



『お前、誰でもいいんだな』

1ヶ月前のあの時、自覚したのだ。
取り替えしのつかない言葉を吐き、突き刺さるような言葉をもらった。
あまりにも手遅れな瞬間に、自分の本心を確信した。
叩きつけられるように、それまでの不思議な感情が何だったのか説明がついた。




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