お題

心温
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20年生きて、付き合った子は3人。
多いとも、少ないとも思わない。

好きなところもあったし、好きだと言ってもらえたところもある。
同じ時間を共有し、『好き』よりも『合わない』部分が互いに増えていき、別れる。
恋愛とは、そんなものだと思っていた。
どちらかと言えば融通が効かず、面白みはない奴だと思う。
刺激的な事を望むタイプではないから、俺と付き合った子は果たして満足だっただろうか。
正直、自信はない。
でもこれが自分の恋愛傾向であり、それでよかった。
全力を注ぐほどのものではない。
…そんなふうに恋愛に対して、重要度を占めていなかったからもしれない。
自分が同性を『好き』だと思っても、それを変だとは思わなかった。
ただ、どうしたものか困惑してもいた。

あの時、いつものように自分でこたえを出していれば良かったのだろうか。
俺らしくなく相談なんてしなかったら、秋元とただの友人としていられたのか。
そうすれば、深く交わらず、触れあわずに…こんな思いも、抱かずにいられただろうか。



「うわ、これ辛い!」

丸い眼をさらに見開いて、目の前の後輩は声をあげた。

「新メニューだっていうから食べてみたのに…こんなの、辛すぎます」

そう言って、カレーの皿をスプーンでつついた。
辛さからか、目の回りを赤くして口を尖らせている。
俺は苦笑しつつ、自分の食べていた野菜炒め定食をトレイごと押してやる。

「交換するから、そっちよこして」
「え…でも…!」
「俺は辛いの平気だから」

そう言うと困った顔をしてから、おずおずとトレイを押してくる。

「すいません」

1年の永瀬理久(ナカゼリク)とは、最近よくこうして昼食をとる。
俺は単独で食べるのを好んだが、時間帯があうと向かいの席に永瀬がくるようになった。

「あ、美味しい!やっぱりこっちにしとけば良かった」

満面の笑みを永瀬は向けてきた。

見てるだけで、暖かい気持ちになる笑顔だ。
子犬みたいに、その柔らかそうな髪を撫でてやりたいくなる。
食べながら瞳は明るく、くるくる活発に動く。
ついこの間まで、この瞳が暗く潤んでいたとは思えない。

永瀬には、高校から付き合っていた『彼氏』がいた。
初めて打ち明けられた時は驚いたが、それよりも深刻に悩む姿に心を痛めた。
大学が別々になってからすれ違い、喧嘩ばかりだと言う。



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