短編

コンビニ
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俺とは反対に、悟の声は静かで落ち着いていた。

固い決意を感じた。

俺は一瞬、眉を寄せた。
悟と付き合い出しても、いろんな奴を口説いては寝た。
いつしか隠すのさえ、めんどくさくなった。
それでも悟は側にいた。
浮気に気付いても変わらず、隣にいた。
呼べばいつでも来て抱かれて、食い物まで作る。
悟に対する自分の行動を思い出しつつも、俺は引き下がる気にならなかった。
プライド半分、焦燥半分。
罪悪感にはひたすら目を伏せて、俺は言った。

「わかった。じゃあ、他とは一切手を切る。おまえだけにする。だから、考え直せ」
『…』

優しい声音に変えて言うと、悟は黙り込んでしまった。
そういえば、もう長い事こんなふうに優しく囁いた記憶がない。
実感すると何に対してなのか、焦る気持ちが強くなった。
苛立ちながら携帯片手に、レジに缶コーヒーを置いた。
レジに立つ店員の男と目が合う。
だいぶ前から働いているらしいこの店員とは、よく顔を合わせた。
たぶん同世代。
行きつけのコンビニだ、嫌でもわかる。
無愛想で仕事を淡々とこなす姿が、気に食わなかった。
何度か客の女に声をかけられては、さらりとかわす所をみかけた。
それも、気に食わなかった。

…それから、時折向けられた視線。
それが何より不愉快だった。



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