短編

指先マジック
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髪の毛を流し終えて、タオルを生え際にあてがわれる。
それから首の後には温かいタオル。
…これがまた絶妙、適温。
ゆっくり身体を起こされて、僕はぱちりと目を開けた。

「すんごい気持ちよかった」
「そりゃどうもありがとうございます」

…う〜ん、相変わらずそっけない。
ここ一年、一ヵ月おかないで通ってるのに全然進展できずにいる。
鏡の前の席に移動させられ、背後で道具のセットをしている姿を鏡ごしに目で追う。
やや薄いブルーのTシャツにデニム。
シンプルな着こなしも、田村さんはサマになる。
長身で締まった身体、足も長くて…
本当、格好いい。
振り返った田村さんと鏡ごしに目が合って、僕は笑顔を作った。

「……じゃ、カット入ります」

僕の笑顔をあっさり無視して、僕の髪の毛を見つめる。
田村さんは髪をカットする時だけは、呆れたり冷めたりする視線とはがらりと変わって真摯な目付きになる。

髪の毛がうらやましいくらいだ。

でもこんなふうにいつも仕事に真剣な田村さんに、僕は真剣に恋してる。

「今日もどうもありがとうございます」
「これ、会員カードお返しします」

会計後、ドアの前で田村さんにお店のカードを手渡された。
「あの、また来ます!その時は田村サン、よろしくね」

僕は少しでも田村さんと話したくて笑顔でそう言った。



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