短編

さよなら、ばいばい
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後ろにいる男、セイジとは本当に言葉のままだ。


今日の昼間、ただぼんやりと駅にいた。
何回も同じ場所を歩いた。
目的もなく。
いや、実際は探していた。

必死に、切実に。

そしてその手段を、駅のベンチに見つけた。
気怠そうに煙草を吸いながら、腰掛けている男と目が合って。
昼間からうろついてる俺と同じように、彼もその場にずっといた。

「何、してんの」

目の前に立って急に話しかけても、男は別段驚きもせず答えてくる。

「ん、宿探し」
「宿?」
「宿追われちゃって。だから途方に暮れてんだよ」

つりあがり気味の瞳は、そう言いつつも冷静だった。
冷めていた。
見つけた、そう感じた。




「あんた、恋愛とかした事ある?」

腹ばいになっているセイジの背中に、俺はぼんやりと天井を見ながら聞いた。
セイジという名前しか知らない、ゆきずりで寝た男に、なんでそんな質問をしたかはわからない。

「あるよ」
「へぇ…今?」
「昔」
「昔?終わったの?」
「捨てられたから。無茶苦茶にひどく」
「辛かった?」
「そりゃ、ね」
「ふぅん」
「ああいうのはごめんだからこうしてるんじゃない?」


他人事のように自分の事をつらつら言いながら、俺の耳に顔を寄せてくる。



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