中編

brother days
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俺が帰って来た所で、食事が始まった。
会話好きの親父が、いつものように真っ先に口を開く。

「春休みが終わったら、いよいよオウもナルも学生最後の年だな」
「…まぁね」

ナルがテレビを見ながら、俺も短くああ、とだけ頷く。
大学四年になる俺と、高校三年になるナル。
あまり身長は伸びないままだが、それでもその横顔はまた少し大人びた気がする。

「全く春休みなんだから、ナルもオウ君見習って、たまには買い物とか付き合ってよね」

話に入ってきた母さんは、ナルにそっくりの黒目がちな目で、睨むようにナルを見た。

「…ん〜……いろいろ忙しいから」
「もう、友達多いのはいいけど、お母さん最近つまんないわ」
「じゃ、近いうち付き合うからさ」
「じゃ、俺も付き合おう」

親父が混じり、楽しげに会話する3人を、コロッケをもくもくと口にしながら見やる。
毎日目にする光景。
とても仲のいい家族だと思う。
家族に言わせると口数が少ないらしい俺は、大体こうして眺めてるだけだが、居心地はよかった。
ただ、ナルは一度も俺に目を向けない。
最近見慣れてしまったのは、いつもテレビを見る後頭部か、家族を見る横顔だけだ。
少し冷たくも見える綺麗な顔立ちの弟の、笑うと人懐こくなる顔は、ここ何年か俺には向けられなくなった。
時折する会話も、味気無いものばかりだ。
敢えて気付かないふりをしているが、それまでとは真逆なナルの態度は少なからず俺を傷つけている。
それがただの兄としての感情ではないから、なおさら質が悪い。

「…あのさ」

ぽつりと楽しげな会話の中、口を開いた。

親父も母さんも、俺を見た。
ナルだけが、口をつぐんで隣で食事を再開する気配がした。

「ん、どうした?」

親父の問い掛けに少し緊張したけど、努めて落着いた声で続けた。

「俺、一人暮らししたいんだけど」
「えっ…」

一瞬の沈黙のあと、最初に母さんが驚いた声を出した。




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