中編
□悪い夢
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きっかけは、1冊の本だった。
「おい、なんだこれ」
渡のデスクに足を止めて、中里が声をあげた。
俺は壁に寄り掛かり、読んでた少女漫画からそっちへ目をやる。
同じように、お菓子を食べながら寝そべって漫画を読んでた渡が、慌てて立ち上がった。
「ぁあ〜それね、クラスの女子の間で流行ってんの」
「流行ってるったって…おまえなぁ…えげつないぞ」
こんなやり取りを交わしてる、中里悠太(ナカザトユウタ)と渡なぎさ。
今年の春から付き合い始めた仲だ。
長身で、きりりとした端正な顔だちの中里に渡が一目惚れ、片思いしてたらしい。
押しに負けたように2人の付き合いがスタートして、2ヶ月がたつ。
で、俺…工藤政生(クドウマサキ)はというと、高校1年でも同じクラスの中里とは、正反対なタイプなのに気が合い、しょっちゅう一緒に行動してた。
今だって、中里の彼女んちにこうしてお邪魔してるわけだから。
「おい工藤、これどう思う?」
呆れた口調で呼ばれて、俺は立ち上がり、2人が手にしている本を覗きこんだ。
「……」
そこにはキスし、きわどく絡みあう写真が乗せられてた。
これが男女なら、まだいい。
思わず絶句して見入ってしまったのは、これが男同士のものだったからだ。